■琵琶橋公園
住所:福岡市東区香住ケ丘2-27
多様性が溶け込む、香住ヶ丘の温もりあるムード
今回フォーカスするのは、香椎エリアを構成する地域の一つ「香住ヶ丘(かすみがおか)」。福岡女子大学や九州産業大学などの学校が複数並び、大通りから一歩入った丘陵地には戸建てやアパートなどが集まることから、“大学そばの穏やかな住宅地”というイメージが強い。そんな香住ヶ丘の暮らしを探るべく、『CAFE FLACOCO 8(カフェ フラココ エイト)』のオーナー・白川知美さんにインタビュー。具体的な話の中から、意外な世帯層や文化的な暮らしが見えてきた。
「学生のまち」という偏りがない、多様性に満ちた地域性。
香住ヶ丘2丁目の大通り沿いでバーガーショップを営む、『CAFE FLACOCO 8(カフェ フラココ エイト)』のオーナー・白川さん。エリア選びの理由を尋ねてみると、最初からこの地域をめがけていたわけではなく、理想的な物件との出会いで出店を決めたとか。例えば、一人で切り盛りできるコンパクトな空間、太陽の光がたくさん入る開放的な間取り、通りに面して横長のつくりが条件だったと語る。
「宮崎県出身の私は福岡市の土地勘がなかったので、物件選びの際は間取り重視で選んでいました。候補には南区や早良区などの物件も上がっていましたが、ここを内見した時に理想的な間取りと、不動産会社の方の『この辺りはお店の入れ替わりがあまりない』という言葉にもピンときたんです。飲食業を始めるからには腰を据えて長くやりたいと思っていたので、そういった地域性もいいなと感じましたね」
白川さんが営むバーガーショップ(写真左)。近所には地域に根ざす老舗が多数並ぶ(写真右)
旧3号線の495号線沿いには息の長い老舗が点在し、地域密着型の飲食店も多いように感じる。前述のように土地勘がない状態でお店を開いた白川さん。実際にお店をオープンさせて、街の魅力をどのように感じたのだろう?
「うちのお店は九州産業大学のそばとあって、お客様の約4割が学生さんなのですが、意外とご年配の方も多く、まちを見ても老若男女がほどよく溶け込んでいるのが印象的でしたね。全体的に親しみやすいというか、アットホームな雰囲気が流れているなと感じます」
開店に向けての工事期間中や開店後も、近隣の住民が「何のお店ですか?」と気になる様子で覗きにきたり、道すがら気さくに声をかけてくれる人もいたり、人と人との距離感が近いことを肌で感じたと白川さん。また2015年のオープン以降、徐々に住民の様子が変化していることも感じているそう。
「オープン当初はご年配のみなさんの元気な姿が印象的でしたが、しばらくすると、社会人の単身世帯も多いことにも気づきました。2020年くらいは海外の方もよく目にしていましたし、最近では20~30代のヤングファミリー層の方もたくさん見かけます。福岡女子大学と九州産業大学が近くにあるので学生さんが多いものの、いろんな年齢層の方が混じり合い、ここ数年でさらに住民の幅が広がっている気がします」
この1~2年でベビーカーを押す若い夫婦の姿も増えたと語る白川さん。どうやらファミリー向けのマンションも徐々に増えているようだ。海外の住民に関してはアジア、東南アジア、欧米など国際色豊か。留学生のほか、海外の語学教諭やビジネスマンもいて、世代も国籍も性別も、いろんなカラーが混じり合う。白川さんも街ゆく人の人間観察が楽しいようで、「商いをしていて飽きないですよ」とジョーク交じりに微笑む。
『CAFE FLACOCO 8』近辺には単身者向けの集合住宅が多数
「これはお客様との会話で知ったのですが、大学が近い地域柄、単身用のマンションやアパートがたくさん建ち並んでいるので、そこに社会人の方や国内外からの単身者が住むケースが多いようです。博多駅まで乗り換えなしでいけますし、天神へ行く際も高速道路を通るバスを使えばあっという間。通勤が快適なうえ、家賃も天神・博多界隈より手頃なので、社会人の一人暮らしにも最適ですよね」
香椎エリアの主要道路である旧3号線(国道495号線/通称:和白通り)の終点は香住ヶ丘1丁目。そこから国道3号(通称:香椎バイパス)と福岡高速道路1号線が重なるため、車や公共バスを利用して博多・天神・空港・新宮方面へのアクセスもスムーズ。さらに、JR鹿児島本線・九産大前駅と、西鉄貝塚線・香椎花園駅も近いとあって、交通の便に優れているのも香住ヶ丘暮らしのメリットだろう。
国道495号線(和白通り)と国道3号(香椎バイパス)が重なる手前地点
ちょっとしたステータスにもなっている“香住ヶ丘ブランド”。
コロナ禍を経て、テイクアウトの需要が高まっている昨今。『CAFE FLACOCO 8』も以前は店内でゆっくり過ごす人が大半だったが、現在はデリバリーやテイクアウトの注文率が格段に上がったという。そういう意味では、JR九産大前駅界隈には『CAFE FLACOCO 8』をはじめ、弁当屋や唐揚げ専門店などのテイクアウトにぴったりな飲食店が充実していて、バラエティ豊かな店舗が住民の食卓を支えてくれている。
近隣の施設でいうと、香住ヶ丘1丁目にディスカウントストア『ダイレックス 香椎店』、西鉄香椎花園駅の裏手には『西鉄ストア 香椎花園店』、香椎バイパスまで足をのばすとスーパーマーケットやスポーツジム、大型薬局、飲食店などが集まる複合施設『BRUNCH(ブランチ)福岡下原』もある。コンビニエンスストアも大通り沿いに複数並び、生活に必要なものが徒歩圏内で手に入る環境だ。
九州産業大学の正面入口からほど近い『ダイレックス 香椎店』
西鉄貝塚線・香椎花園駅の裏手にある『西鉄ストア 香椎花園店』
ちなみに、香住ヶ丘2丁目に建つ『CAFE FLACOCO 8』は、レトロな街並みで味わいのある「唐原(とうのはる)」と、九州産業大学を中心とした「松香台(まつかだい)」の2地区との境目に位置する。どのエリアも住宅地ではあるものの、白川さんはこの界隈に長く住む人から“香住ヶ丘ブランド”という地域性を教わったそうだ。
「お客様曰く、香住ヶ丘は数十年前から高級住宅街として名を馳せており、“香住ヶ丘ブランド”という概念があるとか。確かに今も立派な豪邸がずらりと並んでいますし、有名な作家や画家の方々が住んでいらっしゃるという話も聞きます」
白川さんが言うように、香住ヶ丘は香椎エリアの中でも美和台や美和台新町と並び高級住宅地として知られている。特に旧3号線(495号線)から西側へ入った丘陵地は、個性的な豪邸が建ち並び、春になると美しい桜並木が見られ、建物や公園を眺めながら散歩するのも楽しい。近辺には香椎宮などの魅力的なスポットが数多くあり(Vol.9 東区香椎駅前2丁目編参照)、心豊かに暮らせるエリアだ。
『向の山公園』からの眺望
香住ヶ丘とアイランドシティを結ぶ『あいたか橋』は見晴らしがよく、海風を感じられる絶好の散歩コース。ここから香椎海岸遊歩道をぐるっと1周すると約4kmのランニング&ウォーキングコースとなり、1日を通して人々のリフレッシュの場になっている。2021年に惜しまれながら閉園した旧『かしいかえん』の跡地には、複合型アウトドア施設『かしいのはまビレッジ』が期間限定でオープン中(2022年12月現在)。約3万3500平方メートルという広大な面積を誇る香住ヶ丘7丁目のこの地に、今後なにが建設されるか、住民をはじめとする多くの注目が集まる。
ジョギングやウォーキングが気持ちいい『あいたか橋』
今後の展開が楽しみな旧『かしいかえん』跡地
住民も利用できる大学施設も、感性豊かに暮らせるポイント!
『CAFE FLACOCO 8』の目と鼻の先にあり、香住ヶ丘エリアに隣接する九州産業大学は、学生のみならず、このまちに住む人々にとっても大きな存在だ。
「九州産業大学には芸術学部や造形短期大学部もあり、九産大出身の作家さんも多いですよね。うちのお店にもいつもカメラをぶら下げてくる子や、コーヒーを飲みながらひたすらイラストを描いている子など、芸術の道をめざす学生さんが通ってくれています。もちろん他学部の学生さんもそれぞれの夢を持ちながら学生生活を謳歌していて、そういった若い世代の子たちが近くにいる環境は私にとっても刺激的。あと、学生に対する地域の人々の応援ムードも温かくていいですよね」
学生やお客さんとの交流を大切にする白川さんは、店内を撮影スポットとして提供したり、学生たちが組むバンドのライブ会場として貸し出したり、いろんな人の思いを汲んで「できることなら」とアシストしている。そして、「常連だった卒業生たちが数年後に顔を見せに訪れてくれることもあって、それが本当に嬉しいんです」とにっこり。
九州産業大学にある美術館や図書館、学生食堂やカフェテリア、屋内プール、庭園などの施設は一般開放され、近隣住民も自由に出入りができるうえ利用も可能だ。「建物もおしゃれですてき。学内の食堂やベーカリーショップは良心価格で住民の方にとってもありがたい存在でしょうし、私も学内のATMにパッと立ち寄ったりしています(笑)」と白川さん。
一般開放している九州産業大学内の美術館や図書館
そして、自然と近いロケーションも清々しい暮らしの大きな要素。海なら香椎浜や和白干潟、山は立花山や三日月山があり、自転車または徒歩での散策も楽しめる。「普段仕事で天神・博多などへ通勤する人も、休日は自宅界隈の自然のスポットでリフレッシュしたり、趣味を充実させたり、ONとOFFの切り替えをうまくできそうですね」。
今年で開店8周年を迎え、白川さんは改めて感じるものがあるという。
「お店を始める前は、ご近所さんとのお付き合いがここまで深いものになるとは思っていませんでした。この界隈に住む方々のアットホームな気質のおかげですね。学生さんや常連さんとのふれあいが楽しいですし、気さくに声をかけてくださる心優しい近所の方々の存在がありがたくて、このエリアを選んでよかったとしみじみ感じます。ビジネス街や他のエリアだったらここまで続けられなかったかも…!? そう思うほど、私の性格にぴったり! 周りの人に元気をもらいながら、毎日楽しんでお店に立たせてもらっています」
老若男女が行き交うまち、大学を中心としたグローバルな活気、地域を囲む豊かな自然。さまざまなモノ・コト・人々が混じり合い、そんな多様性に満ちた空気感が人々の生活に自然に溶け込んでいる。穏やかな暮らしの中でいつも新鮮な気持ちや新しい発見をもたらしてくれるこのまちに対し、「ここを選んでよかった」と語る白川さん。その言葉がなによりも街の魅力を表しているのではないだろうか。