■千石焼(せんごくやき)
住所:福岡市東区香椎駅前1-17-24 西鉄香椎名店街
TEL:092-661-7820
営業時間:10:00~19:00(当面の間、18:00閉店)
定休日:日曜、不定(facebookを要確認)
https://www.facebook.com/100059yaki/
「歴史的神社に見守られ、日々成長する香椎のまちとヒト」
福岡市東区香椎は、福岡を代表する副都心として戦後から絶えず発展してきた地域。乗降客数が多いJR香椎駅を中心に商業施設や商店街が栄え、大型店が連なる国道3号線も通ることから、人の流れがとても活発だ。さらに小・中・高・大の教育機関が充実していて“学生のまち”の側面も持ち、ファミリー層も多く住んでいる。そんな拓けたまちに長年暮らす人々は、香椎の魅力をどう捉えているのだろうか。地元人目線で深掘りしてみよう。
香椎って意外と広い…! バラエティ豊かな店が勢ぞろい。
香椎と言えば、西鉄香椎駅やJR香椎駅、歴史的神社「香椎宮」がランドマーク的存在。実は香椎エリアとされる範囲はとても広く、西は海岸沿いの香椎浜、北は「かしいかえん」がある香住ヶ丘、南は千早地区もひっくるめて香椎エリアと捉えていると地元の人々は語る。
ちなみに、今回話を伺う小林謙吾さんの店『珈琲小林』の住所は「香椎駅前2丁目」。目の前に香椎川が流れ、川の向こうが千早地区になる。香椎浜海岸と香椎駅の商店街がそれぞれ徒歩10分圏内に位置する住宅街にひっそりと佇んでいる。
小林さんは熊本県生まれ。幼少期に父親の転勤で香椎に越して以来ずっとこのまちで過ごしてきた。今年で香椎在住歴29年になる。例えば、これまで大学進学や就職のタイミングで地元を飛び出そうと思ったことはなかったのだろうか。この素朴な疑問に、「全く思わなかったですね!」とストレートな言葉が返ってきた。
「高校は香椎エリア内にある香住丘高校に通い、大学は福岡大学だったので実家から通える距離でした。地元を離れたいという気持ちが全く湧かなかったのは、香椎が住み良いまちだからでしょうね。海外などに憧れたこともありましたが、やっぱり香椎が大好きだから、今までもこれからも住み続けたいと思うんですよね」
学生時代から通っていた『千石焼』。現在は西鉄香椎駅前に店を構える
「現在も駅近辺の都市開発が進んでいて、これからますます発展すると思いますが、ちゃんと老舗も残っていますよ。回転饅頭とかき氷が有名な『千石焼』やお好み焼きの『ふきや』、買い食いの定番スポット『むっちゃん万十』も、香椎の愛すべき名店たち。特に駅の周りは昼も夜も“食”が充実していて、老若男女が集まるコアなゾーンですね」
また、香椎には実直かつユーモラスな店主がたくさんいる、とも小林さんは語る。真面目に、いい意味でふざける大人たちがまちを盛り上げているのだとか。香椎駅近くのコンテナ村にある『ロータス ヌードル アンド ボウルズ』は、奇才な店主による空間装飾や麺メニューが面白いと評判。小林さんの同級生が営む『KATAOSA COFFEE』は、アートと音楽とコーヒーが融合し、カルチュラルな空間が広がっている。また近所の『Habibi COFFEE stand』も、オーナーの母娘の軽快なトークが飛び交う憩いのスポットだ。
『KATAOSA COFFEE』の店主・萬野さんとは中学時代からの仲
母娘で営む『Habibi COFFEE stand』。明るいお母さんから元気をもらえる
香椎のパワースポット、1800年以上の歴史を誇る「香椎宮」。
副都心として年々発展する香椎だが、悠久の歴史を持つ「香椎宮」の存在も忘れてはならない。小林さんをはじめ地元の人々にとって思入れの強い場所で、このまちを語る上で欠かせない守り神的存在だそう。
「今も昔も香椎を象徴するのは、ここ『香椎宮』です。幼い頃から初詣やスケッチ大会で何度も足を運んできた馴染みの場所。神功皇后縁の古い歴史を持ち、全国に16社、九州だと2社しかない“勅祭社”(祭事において天皇により勅使が遣わされる神社)に定められている由緒正しい神社なんですよ。1800年前からずっとこのまちを見守り続けるパワースポットで、境内の厳かで澄みわたる空気感もすごい。香椎の誇りといっても過言ではないので、多くの方に訪れてもらいたいです!」
香椎宮へ向かう際、勅使通りと呼ばれる緑豊かな並木道(参道)を通るのだが、すでにこの通りから空気感が変わり、静ひつで神秘的なムードに包まれる。香椎宮の敷地は広く、石造りの神橋、荘厳な佇まいの楼門を抜け、さらに奥の鳥居と中門をくぐり、ようやく拝殿へ…。美しい朱塗りの本殿とうっそうと茂る木々に囲まれた空間は、自然と心が洗われるようで神秘的。
「本殿前に樹齢1800年を超える御神木・綾杉が鎮座し、どっしり力強いオーラを放っています。香椎で商売をする者として、毎月1日と15日にできるだけ参拝するようにしていますが、その度に凝り固まった考えが和らいだり、心をリセットできたり、いつも新鮮な気持ちなれるんですよね。訪れた際はぜひ、日本唯一の神社建築様式『香椎造(かしいづくり)』にも注目してみてください」
また、香椎浜とアイランドシティ間の海上には、香椎宮の境外末社として建てられたて御島神社がある。日本書紀にも登場する歴史スポットで、時期によっては鳥居に向かって夕日が沈むシーンも望める絶景のロケーション。普段は海を眺めながら一息ついたり、浜辺で遊んだり、1周約3kmの遊歩道をジョギングや散歩するのもいい。
香椎浜の海岸は、朝の散歩や夕暮れのサンセットがおすすめ
香椎海岸から参道にかけて、街灯には鳥居の意匠があしらわれている
香椎川沿いの“運命”の場所で、新たな門出を迎える…!
5月から香椎駅前2丁目で店を立ち上げる小林さん。実はその場所は、小林さんがコーヒーの道を志すきっかけとなった縁深い地だ。
「10年前、ここは香椎の老舗喫茶店の系列店『ミマツ・スペシャルティコーヒーロースター』だったんです。その頃僕は寿司屋でアルバイトをしていたのですが、配達中に『あんなところにいい感じの店があるぞ!』と発見して。勇気を出して入ってみると店長も空間もかっこよくて、さらにコーヒーがものすごくおいしくて、鮮烈な衝撃を受けました。それ以来、その店でコーヒーを飲むことが一日の習慣になったんです。もっとコーヒーについて知りたいという想いと、当時の店長の人柄に惹かれて、直談判して働かせてもらいました」
数年後、『ミマツ・スペシャルティコーヒーロースター』は移転することになったが、小林さんはこの物件を引き継ぎ、別のコーヒーショップ『BANX RIVER』を任された。こうして同じ場所に立ち続けて7年。またもやタイミングと縁が重なり、ここで自身の店舗『珈琲小林』を構えることが決定! 店や業態は変われど、香椎川沿いのこの空間でとびきりのコーヒーを提供し続けるという、偶然のようで運命めいた出来事が、独立というかたちで実を結んだ。
「ファミリー層も多く住む香椎だからこそ老若男女に愛されたいですし、若い世代にも面白がってもらえる店にしたい。老舗の魅力や店主を慕う気持ちって大人になって気づくことが多いでしょう? だから香椎の子どもたちが将来大人になった時に、僕も『珈琲小林のオヤジ、元気にしているかな』なんて言われる店になりたいですね」
かつて自身が惹かれたように、「あんな場所にかっこいい店があるぞ」「ここの店主、面白いな」「この店のコーヒーを飲むと落ち着く」と思われる存在になりたいと語る小林さん。香椎の住宅街に寄り添うように、一日の中の寛ぎの時間とインスピレーションの交差を、小さな空間で新たに紡ぎはじめた。そんな小林さんの愛すべき地元、香椎ライフは、これからも続く。