極小エリアマガジン
大野城市錦町
#37
Interview
「QOL(生活の質)の尊さに気づける、錦町の豊かな時間。」
『BASKING COFFEE kasugabaru(バスキングコーヒー 春日原)』 店長・室本寿和さん

QOL(生活の質)の尊さに気づける、錦町の豊かな時間。

今回フォーカスするのは、2022年4月に市制50周年を迎えた大野城市にあり、新旧さまざまなお店が集う「錦町」。最寄り駅の西鉄春日原駅は8月に高架切り替えが実施されたばかり。新たな駅舎や高架下の展開に注目が集まる中、錦町がどういうまちなのか掘り下げるために、錦町の商店街に店を構える『BASKINGCOFFEE kasugabaru(バスキングコーヒー 春日原)』の店長・室本寿和さんにインタビュー!海外暮らしを経験した室本さんが錦町を拠点にした経緯や、開店後のエピソードなどを伺いながら、まちの魅力を覗いてみよう。

地域の外に向いていたアンテナが、コロナ禍をきっかけに内へシフト。

北九州市出身の室本寿和さんは、2012年に転勤でオランダ・アムステルダムに移住し、2017年にスペシャルティコーヒーのカルチャー誌「Standart(スタンダート)」の日本版の編集長に就任。同年に帰国し、それからは奥様の地元である春日市に住んでいる。帰国後は「Standart Japan」の制作に従事する傍ら、自らも“コーヒーを提供する側”に立つために、東区千早にある『BASKING COFFEE』(本店)のスタッフとして店に立つなど、コーヒーを真ん中にした暮らしを営んでいた。2021年に『BASKING COFFEE kasugabaru』を立ち上げる前は、出張やイベントなどで県外に出向くことが多く、プライベートでコーヒーを飲む際も福岡市方面へ出ることが多かったと語る。

「この辺りに住んでいると、天神や博多まで電車を使って10分ちょっとで行き来ができます。買い物するにもコーヒーを飲むにも、都会へパッと行けちゃうもんだから、逆を言うと地元を素通りしてしまうというか、住んでるまちに対して何も求めなくなるというか…。僕自身も数年前までは“外”にばかり出て、近所の居心地のいい場所や面白い店を探してもなかったんです」

ところが、2020年に拡がったコロナ禍で、室本さんの意識や価値観に変化が訪れたそう。

「パンデミックで行動制限が余儀なくされて、普段通らない近所の路地を散歩してみたり、近所でコーヒーを飲める店がほしいなぁと思ったり、自分が住むエリアを見直すようになり、地域の“内”に意識が向くようになりました。この辺りはベッドタウンでファミリー層が多く住むまち。コーヒー屋さんが少ないので『徒歩圏内にコーヒー屋さんがあったらな』とBASKING COFFEEのオーナーに話したら、『その気持ちが本気なら、お店をやってみる?』と3店舗目の立ち上げの話をもらったんです。妻にも相談し、子供が幼稚園に入るタイミングで、夫婦で新店舗の運営に関わることを決意しました」

最初は春日市近辺で物件探しをしていたという室本さん。なぜ、最終的に大野城市錦町を選んだのだろう。エリア選びについても聞いてみた。

「最初は春日公園のそばを希望していました。海外で暮らしていた時も公園で過ごす時間が多かったですし、“公園が中心になっているまち”がすごく好き。日頃から春日公園に通っていて、『公園のそばにあるコーヒー屋さん』に憧れがあったんです。欲を言えば、公園から店が見えるほど至近距離の物件が望ましかったんですが、そんな都合のいい物件は見つからず…。その次に希望していたエリアが、まさしくこの錦町界隈でした」

錦町に惹かれた理由を尋ねると、自転車とスパイスカレーのお店『みやうら商会』と、バインミー専門店『333 Sai Gon(バーバーバー サイゴン)』の存在が大きかったという。八百屋や美容室など老舗が軒を連ねる商店街と、大型ショッピング施設「イオンモール」が隣り合う地域の中に、独自のセンスとユーモアを持つおしゃれなお店が潜んでいるという“意外性”は確かに興味深い。「もともと『みやうら商会』さんのカレーが好きでしたし、数年前に『333 Sai Gon』さんがオープンした時もワクワクしましたね。そういった店主の個性が光るおしゃれなお店の近くに、コーヒー屋があれば最高だなって思っていました」と室本さん。そして、絶好のタイミングで今の物件と出会った。

場所は『みやうら商会』(写真左)の斜め向かいで『333 Sai Gon』(写真右)の2軒隣

「錦町界隈はマンションがたくさん建っていて、その間に一軒家も並び、若い人もいればご年配も多く住んでいます。住宅街とあってコーヒー豆屋の需要がありますし、この物件は西鉄春日原駅から近くて、商店街の中にあって大好きな2店舗ともご近所。しかも角地の物件はレアですし、大通りから一本入ったロケーションも理想的でした。あと、ちょうどこの裏手に錦町公園があるのも嬉しい偶然。公園の近くにお店を出したいという希望も果たせて、様々なメリットが重なり、錦町のこの場所に出店を決めました」

室本さん夫妻が店に立つ『BASKINGCOFFEE kasugabaru』が2021年に誕生

嬉しい誤算と、徐々に上がっていった「まちの解像度」。

実際にお店を始めてみると、想像以上にシニア世代も利用してくれることを実感したと語る室本さん。入口の扉を開放していると、「ここは何のお店?」と覗くお客さんもいて、新しい出会いが生まれているそうだ。

「お店を始める頃から『地域に寄りそう存在』になりたいと思っていました。子育て世帯の方も気軽に利用できて、コーヒーを飲んで心を休められる場所にしたい、と。お客さんの層としては僕らと同世代の方かなと思っていましたが、良い意味で読みが外れて、幅広い年齢層の方に親しんでいただいていると感じます。ご年配の方もいらっしゃいますし、この近辺には新築マンションがどんどん増えているので、若い方やヤングファミリーの方もいらっしゃいますね」

前述の通り、コロナ禍前は市外や県外に出向くことが多かった室本さんだが、店を始める前と、店を始めた後で、錦町エリアの印象が次第に変わっていったという。

「妻との会話にもたまに出るのですが、店を始める前は地域に対して『(目立ったことが)何も起こらない』という先入観を抱いていました。だから自分たちがお店を始めたら、面白いことをやろうと思っていたんです。けれどお店を始めて、この辺りには面白い店がたくさんあったと気づいたんです。ただただ僕がしっかり目を向けていなかっただけだと痛感しましたね(苦笑)」

開店準備中やオープン後に近所の店に挨拶に行ったり、逆に他店の店主が立ち寄ってくれたり、お客さんからも近隣のおすすめスポットを教えてもらったり…。そういった人とのコミュニケーションを通して、周りのユニークな人や店の存在を知り、室本さんの中で「まちの解像度」が上がっていったそうだ。

近所の『みやうら商会』『333 Sai Gon』の他にも、錦町の食卓を支える唐揚げ&お弁当屋の『呑鳥(どんちょう)』、メンチカツがおいしい『春日原 十八(とうはち)』、おしゃれなセレクトショップ『木と星』、グリーン系も揃う花屋『cono co co(このここ)』、パフェが人気でコーヒーもおいしいカフェ『Co.Ro.Ru.COFFEE(コロルコーヒー)』など、錦町には魅力的な個人商店が集まる。

『呑鳥』の手羽先や唐揚げは春日原の名物メニュー

「一つ拠点を設けることで、まちの風景が変わって見えるし、集まる人々の姿・声からいろんな情報を得られます。お客さんの中には主婦の方もいれば、東京と福岡の二拠点生活を送っている人もいて、時間帯によってもお客さんの層はさまざま。いろんな世代・タイプの人が集まり、世間話やまちのことなどを話してくれるんです。そんな会話からも、錦町界隈に暮らしている人は多種多様の面白い方や、温厚で優しい方が多いという気づきを得ましたね」

「あと、商店街があるまちっていいですよね。近くに大型のショッピングモールがありながらも、商店街に八百屋さんや肉屋さんなど個人商店が現役で残っていて、生活に必要なお店が地域に根付いている。昔は西新の商店街のように歩行者天国の出店もあったと、この地域を昔から知っているお客さんから教えてもらいました」

錦町は通りごとに商店街が細分化している

そして、西鉄春日原駅の高架事業もまちの一大トピックだ。 2011年に始まった西鉄天神大牟田線(春日原~下大利)の連続立体交差事業が佳境を迎え、ついに8月末に西鉄春日原駅を含む雑餉隈駅から下大利駅までの高架切り替えが完了。19カ所の踏切がなくなるため、踏切遮断による交通渋滞や踏切事故が解消され、近隣住民にとってうれしい環境に。

「新しい駅舎の建物にスーパーが入るという噂を聞いています。駅の西口には広いロータリーができて、より一層利便性も上がるでしょうし、今後もマンションなどがたくさん建って人口が増えるのでは。駅を中心に、まちが新たなチャプターに入り、さらに活性化すると期待しています」

このまちに住むことで得られる、暮らしの幸福感。

室本さんは地域ぐるみでまちを活性化できたらという思いから、コーヒー以外のモノ・コトを楽しめる場所として間口を広げるアクションを行なっている。お店で他店のポップアップショップを開いたり、コラボメニューを展開したりと、いろんな仕掛けを行っているのだ。春日市のアジア料理店『Yummy!mekong(ヤミーメコン)』(極小エリアマガジン#24参照)や、雑餉隈のケーキショップ『You+(ユープラス)』など、近隣エリアの魅力的なお店を知るきっかけを作りたいと、錦町から行きやすいお店とのコラボにも積極的。
「僕がみなさんから素敵なお店や地域の魅力を教えてもらったように、僕もとっておきのおいしいお店や地域の面白みを伝えていきたい。おいしいものや豊かな時間に触れて、暮らしの喜びが広がっていったらいいなと思います。関わってくださる方も、お客さんも、一緒に楽しんでもらえるなら、こういう面白い機会を作っていきたいですね」

現在は毎週木曜の店舗定休日を利用して『Nalu Handmade Bakery House(ナル ハンドメイド ベーカリーハウス)』が登場し、とっておきのパンを販売。これは「錦町エリアにはパン屋さんが少ない」という声を活かした取り組み。会話の中で出た要望をきっかけに、室本さんがおすすめするパン屋を招き、毎週木曜に間借しスタイルでパンを販売している。

「『一つの地域に3件面白いお店があれば、その地域は活性化する』という話を耳にしたことがあります。そこに人が集まり、人と人、人とモノ・コトを結びあわせて、新しい楽しさや喜びが派生するのかな。僕らもその一端を担っていきたいですね。今も『春日原にコーヒー屋さんがあったんだ!』と気づいて入ってくださる新しいお客さんもいますし、まだまだこれから。僕が以前そうだったように、今まで地元にアンテナが向いていなかった人が、うちをきっかけに『面白いお店があるじゃん!』『楽しくて暮らしやすいよね』など、錦町エリアに目を向ける人が増えていけばいいなと思います」

子育て世帯の室本さん曰く、『大野城 心のふるさと館』も子連れにおすすめ。大野城の歴史が学べたり、アート展が開かれていたり、子どもも遊べるクライミングウォールもあったり、親子で楽しめるスポット。

錦町の隣町にあり、徒歩圏内の『大野城 心のふるさと館』

散歩や運動に最適な『春日公園』

「あと、やはり『春日公園』も僕の暮らしに欠かせない場所。あの規模の公園はなかなかないですし、個人的には園内にある『たっち花壇』というマニアックな一角が好きですね(笑)。住み心地というのは、まちの利便性だけじゃなく、その人のライフスタイルに合うお店やスポットがあるかも重要ではないでしょうか。この近辺に住む人にとって僕らがそういう存在になれるようにこれからも頑張りたいですし、他のまちから訪れる人にとっても長く滞在できる楽しいまちに成長していけたらいいなと思います」

コーヒーを通して豊かな時間と、日々のささやかな楽しみを提供する室本さんの思いを知り、「このまちに住むことで得られる幸福感」を垣間見た気がする。線路が高架化して交通手段が快適になることも住環境のポイントに挙げられるが、大好きなお店があること、気持ちが安らぐ場所があること、そういった心の喜びこそが“QOL(生活の質)”を上げる大切なエッセンスだと改めて感じた。

Recommend Spot in Nishikimachi

遊具で遊んだり、ベンチで本を読んだり、子供も大人も和めるスポット。

■錦町公園
住所:大野城市錦町2-1

バスケットゴールや遊具があり、子供たちが元気よく遊び、地域の人が集う公園。「公園が少し高台になっていて、入口に階段があるんです。道路から公園に上がっていく時のアプローチが好きですね。園内には大きな木があり、エネルギッシュでパワフルなオーラが漂っていますよ」と室本さん。例えば、『333 Sai Gon』でバインミーを、そして『BASKING COFFEE kasugabaru』でコーヒーをテイクアウトし、公園の階段やベンチで食べるという過ごし方もおすすめ。

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BASKING COFFEE kasugabaru(バスキングコーヒー 春日原)

■住所:大野城市錦町2-1-18
TEL:092-409-3566
営業時間:11:00〜19:00
定休日:木曜
https://www.instagram.com/basking.kasugabaru/

東区千早にある自家焙煎のコーヒーショップ『BASKING COFFEE』の3号店。西鉄春日原駅から徒歩約5分の錦町の商店街内に位置し、通りに面して大きな窓のある解放感のある店構えが印象的。世界各国から買い付けられたスペシャリティコーヒーを使用したドリンクをはじめ、コーヒー豆やコーヒーグッズも販売している。奥様の手作りスイーツも人気で、すぐ売り切れてしまうほど。季節ごとにシーズナルドリンクやコラボスイーツを販売したり、月に一度モーニングの営業や夜の営業(Night Basking)、コーヒーセミナー、様々なポップアップイベントなどを行ったりと、一年中楽しめる仕掛けが盛りだくさん。オープンから一年半、地域の人の憩いの場として愛されている。

〜 エリア紹介:大野城市錦町 〜

福岡市と太宰府市の間に位置する大野城市にあり、JR春日駅、西鉄春日原駅のWアクセスが可能なベットタウン。最寄りは西鉄春日原駅となり、同駅では2022年8月に高架切り替えが実施され、これまで近隣住民の悩みの種だった踏切遮断による交通渋滞が解消。列車利用で博多や天神まで15分弱と、通勤・通学にも好立地。個人商店が軒を連ねる商店街と、大通り沿いには大型のショッピングモールが共存し、どちらも住民の生活を支える重要なスポットに。大野城市役所や春日公園も近く、利便性に優れた環境。

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