極小エリアマガジン
那珂川市別所
#35
Interview
「美しい自然に囲まれ、自分自身を見つめ前進できる別所の暮らし。」
『御忍び麺処 nakamuLab.(ナカムラボ)』 店主・中村聡志さん

美しい自然に囲まれ、自分自身を見つめ前進できる別所の暮らし。

今回取り上げる那珂川市はエリアの7割が山に囲まれている山間地。Vol.12 那珂川市中原5丁目編では博多南駅近くの「中原」を紹介したが、この同じ那珂川市でも違った特色を持つ、山の手エリアの「別所」をクローズアップ。そこで、約3年前から別所で暮らしている『御忍び麺処 nakamuLab.(ナカムラボ)』の店主・中村聡志さんに、別所の地域性や周辺環境について話を聞いてみた。

幼少期に遊んだ那珂川市。縁がもたらした別所暮らし。

今回取り上げる「別所」は博多南駅から車で約15分の場所で、那珂川市の中心部から一歩離れたエリア。南畑ダムと博多湾を繋ぐ那珂川と、片縄山や成竹山などの群山、そして広大な田園風景が続く長閑なロケーションだ。市内を一望できる岩門城跡の展望台から眺めても、駅界隈の住宅地と別所界隈の住宅地は、建物の密度や周辺環境が大きく異なることがわかる。ただ、双方の距離は先述の通り、車で10〜15分と案外近い位置にある。

(写真左)博多南駅界隈はマンションや一軒家が集まるエリア

(写真右)別所界隈は自然に囲まれ、静かなで穏やかな環境

長く住み続ける地元住民が多く、建物の大半を一軒家が占める別所エリアに、県内外から多くの客を集める人気ラーメン店『御忍び麺処 nakamuLab.』はある。店主の中村聡志さんは20代の頃に勤めた老舗ラーメン店の海外事業の立ち上げに携わり、シンガポールやアメリカなど海外を渡り歩いた才能溢れるラーメン職人。そんなグローバルな視点を持つ中村さんが、帰国後の独立の際になぜ那珂川市を拠点に選んだのだろう。

「この家は友人のおじいちゃんの持ち家なんです。長らく海外に住んでいた僕は、帰国後に住む家とお店の物件を同時進行で探していました。すると偶然友人から『じいちゃんが所有する借家が空いたから誰か入居しないか』という話が出て、僕の地元(福岡市)から近いし那珂川市に住むのもいいなと思い、友人の誘いに手を挙げたという流れです」

地元が福岡市・那珂川市・春日市の境目付近であることから、幼い頃から那珂川市によく遊びに来ていたという中村さん。那珂川方面や春日方面にも友達と自転車で出かけて、川遊びをしたり空き地で野球をしたり、のびのびと駆け回っていたそう。

「この周辺の川遊びスポットといえば『中ノ島公園』が有名かもしれませんが、僕らの幼少期はその辺の川で水浴びしたり、名前もないような場所を冒険気分で散策したりしていましたね。自転車で20〜30分の場所に雄大な自然があるし、春日や南区方面にも自転車で行ける距離だったので、あちこち遊びに出かけていましたよ」

山間に少し入ると美しい河川と渓谷が望め、5〜6月頃には蛍の姿も

昔からよく訪れていた那珂川市。そんなまちを拠点に、縁あって山の麓である別所に暮らし始めた中村さん。店の立ち上げのため不動産探しに勤しむも、なかなか良い物件が見つからなかったそうだ。そんな中、研究を続けていたオリジナルラーメンの試食会を自宅で開いた際、友人から「ラーメンは完璧に仕上がっているんだから、この家でお店をやったら?」と言われてピンときた。ちょうどその頃、那珂川が町から市に昇格するタイミングで、まちが注目されていたことも機運に感じたという。緻密な戦略を立て、「ここでしか味わえない鶏白湯ラーメン」×「自宅の一室を使った完全予約制の営業」というユニークなスタイルを確立。那珂川市を舞台にした『nakamuLab.』の幕が上がり、その評判は口コミやメディアを通してみるみる広がって全国的に注目を集める人気店となった。

地域の魅力はそのままに、周辺環境が徐々に快適化。

2019年にオープンした『nakamuLab.』。人気店のうえ、一人体制で営業しているため、なかなかゆっくり休みを取ることが難しいという中村さんだが、3年近く別所に暮らしてみて、昔と今のまちの変化など実感するものはあるのだろうか。

「別所エリアって意外と広くて、山の麓も区域内なので、博多南駅付近に比べると『昔から変わらない景色』が残っている方じゃないかな。しいてあげるとすれば、那珂川市の主要道路である県道385号線の拡張・補修でしょうか。道幅が広がり、きれいに整備され、排水工事も行われているようなので、昔から悩まされていた大雨後の冠水問題が解消されると思います」

道路の拡張工事は現在も進行中(写真は岩戸小学校前)

「那珂川市は徐々に、ゆっくりペースで成長を遂げている印象です。発展のスピードは福岡市内より遅いかもしれませんが、昔から住んでいる人にとっては唐突な変化を感じず、普段の生活の中で少しずつ『道がきれいになった』『通りやすくなった』など利便性を実感し、違和感を感じることなく自然体のまま過ごせているのではないでしょうか」

別所エリアから車で3〜5分の場所にある、那珂川市の文化振興の拠点『ミリカローデン那珂川』はこの春リニューアルしたばかり。ここは、イベントホールや会議室、生涯学習センターなどを備えた本館と、那珂川市図書館やトレーニングジム、こども向けのコミュニティ施設が併設された複合施設。著名なアーティストによるコンサートが開かれたり、映画の上映会が実施されたり、料理教室やヨガレッスンなどのサークル活動も行われたりと、地元の老若男女の出会いと憩いの場になっている。リニューアルしたのは文化ホールやエントランスホールで、これから2年ほどかけて外装や図書館などの改修工事が進む予定だ。

フリーマーケットなども開かれる『ミリカローデン那珂川』

エントランスのモニュメントは那珂川市産材で作られている

ちなみに、別所から車で20分ほど走ったところにある、五ケ山ダム横の『五ケ山クロス』も那珂川市の新スポット。キャンプ施設、川遊びゾーン、アウトドアショップ、展望台などが集まり、アウトドアの聖地としてキャンパーやツーリングのライダーたちが多数訪れている。

アウトドア好きが集まる『五ケ山クロス(ベース)』と、絶景の五ケ山ダム

福岡市内から中ノ島公園や五ケ山クロスへ訪れる場合、先述の県道385号線を利用する人がほとんどだろう。また柳川市や大牟田市、佐賀方面から天神・博多へ行く際も、県道385号線を通るルートがよく使われる。春日市や筑紫野市から下道で糸島方面に渡る際は、『nakamuLab.』の目の前を通る「福岡早良大野城線(56号線)」が抜け道に。「別所を含め、那珂川ってどこへでも行きやすい場所なんですよ。福岡市、太宰府、糸島、佐賀方面など、周りの主要なまちまで車で1時間以内の距離です。昔はただ通り過ぎるだけのまちだったかもしれませんが、今はうちをはじめ、面白いお店や魅力的なお店が増えてきたので、わざわざ訪れたいまちになってきているのかなと感じます」と中村さん。

福岡市と大牟田を繋ぐ県道385号線。那珂川市の主要道路でもある

自然溢れるロケーションで見つけた、大切な場所。

都会だと遭遇しない動物たちや、市街地だと目に触れる機会が少ない自然の美しさ。ふと目に触れる水路のせせらぎや、苔が生えた岩場も、中村さんが好きな光景という。

「ここは静かな環境だし、長閑でいいなと思います。都会では出会えないものや、発見できるものがあって楽しいですよ。例えば、うちの軒先にツバメの巣ができたり、ある時はヘビやキツネを見かけたり、夏になるとカエルの鳴き声が大合唱のように聴こえてきたり…。自然が近い環境だからこそ、オッ!と興味を引く発見があって楽しいです。これは、那珂川市の中でも山側のエリアならではの醍醐味だと思います」

近所の『大山住神社』は、何かの節目で訪れたり、リフレッシュを兼ねて立ち寄ったり、時折足を運ぶお気に入りの場所だと語る。静かな環境の中、聞こえてくるのは鳥や虫の鳴き声と木が揺れる音だけ。みずみずしい空気と神秘的な景色に、心が洗われるような気持ちになる。

「僕の中で神社はお願いをする場所ではなく、自分の決意を誓う場所。これからも頑張りますのでどうぞ見守ってくださいと、土地の神様に宣誓し、向かう道を改めて再確認するんです。こうして手つかずの自然に囲まれ、良い気を浴びて、思考や感情をリセットする。こういう時間も生活の中で大事にしたいですよね。わざわざ遠くの秘境に行かなくても、身近なところで“自分の大切な場所”を見つけることが必要だと思うんです」

最後に、別所をはじめ、これからの那珂川市に期待したいことを尋ねてみた。

「那珂川市にはユニークなお店のほか、イラストレーターの諌山直矢さんや陶芸家・古賀崇洋さんなど才能溢れるアーティストの方々もたくさんいて、みなさんが個々に活躍しています。知る人ぞ知るという認知性でなく、いろんな人にその存在を知ってもらって『那珂川、面白い!』と気づいてほしいですね。例えばですが、今も残っている古い施設を活用して、音楽フェスやお祭りなど、いろんな層に興味をもってもらえるイベントが行われたらいいなとも思います」

「県内外のいろんな地域からお客さんが『nakamuLab.』に来ていただいている、ということは、那珂川市が注目されるきっかけの一端を担い、何かしらのかたちで地域貢献になっているはずだと信じています。ラーメンを食べた後に『中ノ島公園に行こうか』『五ケ山ダムに寄ってみようか』など、来店の前後に那珂川市を満喫する流れもあると思います。また、僕が別所の住宅地で邁進している姿を見て、若い世代の方が地元で一旗揚げようと行動に移すきっかけになれたらとも思います。この地域でお店をやらせてもらっている以上、別所エリア、ひいては那珂川市に何かしら還元して地域貢献(社会貢献)に繋げていきたいですね」

中村さんの地域に対する思いは「愛着」よりも「縁」という言葉がふさわしいかもしれない。中村さんはその「縁」に敬意と恩義を示しながら、ラーメンと向き合う日々の努力で那珂川市に貢献したいと語る。昔から変わらない自然溢れる別所エリアにこれからも素晴らしいお店が増え、住み心地の向上のための開発事業や、行政による地域の魅力発信がますます盛り上がることを期待したい。

Recommend Spot in Bessho

気持ちがすっと研ぎ澄まされるよう。山の麓に佇む小さな神社。

■大山住神社(おおやまずみじんじゃ)
住所:那珂川市別所687

別所の土地を守る神様(氏神様)を祀る神社。緑がうっそうと茂り、神秘的な雰囲気が漂う中、自然と同化したように佇む姿を見るだけで心が洗われるような感覚。境内にある毘沙門堂(びしゃもんどう)では、毎年冬至の日に「毘沙門天大祭」が行われ、「福銭」と呼ばれる金運のお守りが配布される(翌年の祭事にお礼を添えて返納)。また祭事当日は南瓜のぜんざいが振舞われ、多くの地元住民で賑わう。

I’m Here
御忍び麺処 nakamuLab.(ナカムラボ)

住所:那珂川市別所1067-8
TEL:090-4358-1696
営業時間:11:00~15:00/18:00~21:00(完全予約制)
定休日:不定休
https://www.instagram.com/nakamulab.nakagawa/

一軒家の1階部分を使った完全予約制のラーメン店。店主・中村さんの独創的なアイデアとこだわりにより、口当たりや喉越し、風味、味わいに至るまで、“初めて味わう一杯”を体感できる。看板メニューは「鶏白湯soba」(830円)で、無化調の鶏白湯スープをきめ細やかに泡立てたカプチーノ風の仕上げ方が特徴的。そんなふわふわの鶏白湯スープにレアのチャーシューとスライスレモン、ドライのトマト、青菜、白ネギをのせ、濃厚な旨味とさっぱりとした後口を両立。スープの泡が麺に絡み、最後の一滴まで鶏白湯のコクを堪能できる。麺類はこのほか、「和風醤湯soba」「担々麺」があり、手作り餃子も人気。

〜 エリア紹介:那珂川市別所 〜

那珂川市は福岡県中西部の筑紫地域に位置し、春日市の西側に隣接。7割が山に囲まれ、農地や山地、複数のダムが広がる。平地部はベッドタウンとして発展し、1990年に博多南線開通、2015年に人口5万人突破(国勢調査)、2018年に単独市制を施行。そんな那珂川市の中心部・中原地区には市民の足となる「博多南駅」があり、博多駅まで1駅(約8分)でアクセスできる。別所エリアは駅から車で約15分の場所にあり、片縄山や成竹山などの群山と田畑に囲まれたロケーション。那珂川市立岩戸小学校の校区になり、市役所や商工会議所にも近い。スーパーなど量販店が連なる市街地には車で5〜10分の距離。

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