極小エリアマガジン
福岡市東区箱崎1丁目
#27
Interview
「歴史・文化的な環境と、人情派のまちづくりが根付く箱崎の趣。」
『花山』 代表・花田博之さん

歴史・文化的な環境と、人情派のまちづくりが根付く箱崎の趣。

筥崎宮の門前町として、1000年以上の歴史と伝統を誇る「箱崎」。九州大学のキャンパス移設前は「歴史と学問のまち」として親しまれ、現在は九大跡地を利用した新たなまちづくりにも多くの期待が寄せられている。そんな箱崎で育ち、昭和・平成・令和と3つの時代をこのまちで過ごした『花山』の代表・花田博之さんから、箱崎の時代背景や魅力について伺ってみたいと思う。

箱崎の歴史や歩みを知ることで、まちの見方や価値観が深まる。

北部の浜辺では漁業を、南部では農業を生業に発展した箱崎は、古代・中世の時代に博多とともに福岡の政治経済の中核を担っていたという。また、日本三大八幡宮の一つ、筥崎宮の存在も大きい。平安期の923年に遷座されたと言われており、応神天皇とその母の神功(じんぐう)皇后、海の神・神武天皇の母である玉依姫命(たまよりひめのみこと)が祭られている。現在も「勝運の神」として多くの参拝客を集め、福岡ソフトバンクホークスやアビスパ福岡なども毎年必勝祈願に訪れる由緒ある八幡宮だ。

「箱崎は筥崎宮を中心に長い歴史と伝統を持ち、古くから拓かれたまちだったんですよ」と語るのは『花山』の2代目店主・花田さん。現在は箱崎一丁目、二丁目など数字を冠して区分けされているが、かつては「宮前(みやまえ)町」「宮小路(みやしょうじ)町」「下社家(しもしゃげ)町」「茶屋小路(ちゃやしょうじ)」「潮井浜(しおいはま)町」という通称町名があった。これらの町名からも筥崎宮との関連性や、宿場町・漁師町として栄えていた時代背景を感じられて面白い。

「昔は地区がもっと細かく分かれていて、箱崎の中に30ほどの町がありました。各町に魚屋さん、八百屋さん、お風呂屋さん(銭湯)が必ず1軒ずつあり、生活道具店は2地区に1軒くらいあったかな。魚屋さんや八百屋さんは母親たちの集い場で、銭湯は子供から大人まで“裸の付き合い”を育む場でしたね。夏休みに入ると、子供たちは筥崎宮で毎朝ラジオ体操をして、終わったらそのまま境内で馬跳びやゲームをやって遊んでいました」

往年の日本映画に出てきそうなノスタルジックな光景が、ここ箱崎にもしっかり刻まれていたのだ。今もその歴史を引き継ぐ「箱崎商店街」は健在で、魚屋や精肉店、八百屋、飲食店などが80店舗以上連なる。
*箱崎商店街HP https://hakoshoren.org

海が近いことから漁獲量に恵まれた箱崎は、海藻加工食品「おきゅうと」が伝統食として有名

箱崎商店街(大学通り)には老舗の鮮魚店や乾物屋、金物屋が並ぶ

「かつての『毎日マーケット』(現在のきんしゃい通り)は、箱崎商店街の中でも特に活気に満ち溢れていた場所でしたね。人をかき分けて歩かないと進まないほど大勢の人々が集まり、東区随一のショッピングの聖地だったんです。今は大型のスーパーやモールができて、人の流れが分散し、また世帯人数も減少したので以前よりも客足が落ち着きましたけど、昔からの商店が息長く残っていますし、マルシェなどのイベントも行われていますよ」

地域の“宝”を守ることが、まちの土地評価アップにもつながる!

時代やライフスタイルの移り変わりで、箱崎の地域性や住人にも変化が伺えると花田さんは語る。

「団塊の世代以降、大家族から核家族へと変容し、代々続いた家系や旧家が減ったように思います。それと入れ替わるように新しい住宅が建ち、住人の入れ替わりが盛んになった印象です。長く住まれている地元住民の方も、時代や住人の移り変わりで生じるものたちを享受しようという姿勢が見られます。移住者の方が居着きやすい雰囲気になっていると思いますし、まちの成長を考えると良い方向に向かっているのではないでしょうか」

一方で、“守らなければいけないもの”も強く感じているという。それは、緑溢れる筥崎宮界隈の健やかな環境と長年受け継がれている歴史的な風習だ。まちの変化を柔軟に受け入れつつも、まちの歴史的背景や伝統行事、いつ見ても変わらない箱崎らしい景色は、これからも守り続けていかなければいけない。

「地域の“宝”を守りながら、まち全体の魅力を盛り上げていかないといけませんね。これは、自分たちが住むエリアの土地評価にもつながることだから。筥崎宮の景観を損なわないように自治会のみなさんが様々な働きかけをしてくれていますし、伝統行事や治安面においても地元の方々が音頭を取ってくれています」

本殿を背に海岸側を向いた景色(写真左)と、約800m続く参道から本殿を向いた景色(写真右)

参道から筥崎宮を眺める際、遠くまで視界が抜けるような開放感と清々しさを感じるのは、近隣に高層ビルが建たないよう環境への配慮がされているから。この神聖な空気感や悠久の時を感じる景観も地域の“宝”だと花山さんは語る。新しく住む人たちや次世代の子たちにも、自分たちが過ごした箱崎の暮らしの魅力を体感してもらいたい。そんな思いでまちの環境保全に関心を寄せているという。

「3号線の向こうに『浜之鳥居』があり、その鳥居に向かって夕日が沈みゆく光景は実にノスタルジックで、いつ見ても胸にグッとくるものがあります。この風景をいつ、どんなシチュエーションで、どういった気持ちで見るか。人によって感じ方が違うと思いますが、個人的にはこの美しい景色を見た瞬間、『この先の未来が拓けるよ』と教えをいただくような感覚です」

本殿から続く参道を進み3号線を越えると、お潮井浜に浜之鳥居が建つ

「夏場は朝5時、それ以外の季節は朝6時に筥崎宮の鐘が鳴り、約500軒もの露店が軒を連ねる9月の『放生会(ほうじょうや)』の時期には焼き物や甘い香りが漂います。秋になれば銀杏の木が黄金に輝き、実が落ちて独特の香りがふわり。お相撲さんが闊歩する姿を見たら、秋の九州場所が始まるサイン。あれもこれも一日の流れや季節を感じる箱崎の風物詩。これらの情景を新しい入居者の方にも好んでいただきたいですね」

落ち葉拾いをする花田さん。店の前の歩道を隅々まで毎日きれいに清掃することが日課

お店側にとっても住民にとっても、箱崎が楽しいまちであることが大事。

箱崎は1丁目から7丁目まであり広範囲。1丁目は『花山』や筥崎宮、箱崎商店街、JR箱崎駅を包括するコアなエリア。2丁目は交通量が多い3号線に面し、一歩入ると昔ながらの飲食店や一軒家がひしめき合う。3丁目には地下鉄箱崎九大前駅があり、3号線と県道550線を繋ぐ横長のエリア。4丁目は3号線から北側に位置し、潮風が流れる閑静な住宅地。5〜7丁目は3号線沿いの大型店舗、九州大学・旧箱崎キャンパス、貝塚交通公園などが建ち並び、団地やファミリー向けマンションも多く、地下鉄貝塚駅が最寄りとなる。

箱崎商店街内のふれあい通り(写真左)、花山と同じ並びにある『ナガタパン』と『筥崎鳩太郎商店』(写真右)

『花山』がある箱崎1丁目は個人経営の店舗が多数点在し、新しい飲食店も増えてきている。花山の隣には家族写真が人気の『はこざき写真館』、レトロな佇まいのパン屋『ナガタパン』、クラフトビールと創作料理を提供する居酒屋『筥崎鳩太郎商店』、江戸時代末期の商家を改装したレストラン&バー『天井桟敷』が連なる。参道を挟んで向かい側には、さば寿司が看板料理の『博多おぎはら寅吉』があり、花田さんもお墨付き。

「以前はうちくらいしかなかったけれど、少しずつ周りにお店が増えてきました。たくさんの人が筥崎宮に来てくれることを願っているので、宮前周辺にお店が集まり賑わうことは嬉しいこと。みんなのために、まちが盛り上がってほしい」

花田さんは長年筥崎宮の敷地を借り、一等地に店舗を構えさせてもらっていることに恩返しをしたいと言い、筥崎宮を中心とした地域の活性化を望んでいる。商売人と住民のどちらにとっても、“箱崎が楽しいまち”であることが重要であり、それを具現化され続けるために、新しく箱崎に出店する人にも、引っ越してくる住人にも、ウェルカムな姿勢でいる。

「筥崎宮付近に茶屋や飲食店などが建ち並び、参拝とともに周辺散策を楽しめるエリアとして一帯が賑わうこと。それが私の夢です。今も縁日の際は多くの人が集まりますし、少しずつ路面店も増えてきましたが、今後さらに地域が発展していったらいいなと思います。子供から大人まで、みんなの記憶に刻まれる場所となり、時が経っても思い出が鮮やかに蘇るような地域であり続けてほしいですね」

地域のことを一番に考え、良くしようと動く人々が箱崎にはたくさんいるからこそ、この好環境が守られ続けているのだ。歴史の名残に思いを馳せ、新旧の建物が入り混じり情緒溢れる環境に身を置き、神様に見守られながら日常を送る箱崎暮らし。ここに住んだ暁には、“我がまち自慢”がいっぱいできそうだ。

Recommend Spot in Hakozaki

創業139年の“魚のプロ”が提供する、手軽に味わえる海の幸!

■博多おぎはら 寅吉(とらきち)
住所:福岡市東区箱崎1-43-19
TEL:092-231-8198
営業時間:11:00~18:00
定休日:日祝日
https://hakata-torakichi.jp/

明治15年に初代・荻原寅吉氏が箱崎周辺で始めた魚の行商がルーツ。創業139年の『おぎはら鮮魚店』(貝塚)の加工品専門店として、商売の原点である筥崎宮前に2019年にオープン。玄界灘で獲れた魚の加工品が並び、秘伝の黄金タレで仕上げた「黄金さば寿司」や、鮮魚の刺身、無添加の干物、みりん干しなどを揃え、近隣住民の食卓に美味しさを届ける。

I’m Here
花山

住所:福岡市東区箱崎1-44
TEL:090-3320-3293
営業時間:12:00~23:00
定休日:月曜
https://www.instagram.com/hanayama_hanayama/

筥崎宮の目の前に構える、昭和28年創業の箱崎の名物居酒屋。創業以来60年余り屋台で営業を続けていたが、屋台の老朽化に伴い、2018年に店舗形態へとリニューアル。今も屋台仕込みの臨場感と活気ある接客が常連客の拠り所となり、九大の卒業生らも多数かけつけ、遠方からも多くのファンを集める。ミネラルの旨味が凝縮した自家製塩を振った串焼き(140円~)、無添加・化学調味料不使用にこだわったラーメン(650円)はぜひ味わって!

〜 エリア紹介:福岡市東区箱崎1丁目 〜

福岡市東区の南部に位置し、筥崎宮や箱崎商店街を中心に古いまち並みが残る。2021年4月末時点の人口は19,473人、世帯数は11,718世帯(Wikipediaより)。JR九州箱崎駅、地下鉄箱崎宮前駅・箱崎九大前駅・貝塚駅、西鉄貝塚線貝塚駅と公共交通機関のアクセスが充実し、福岡県立図書館、福岡市東区役所、福岡県東警察署といった公共施設も集合。自治会を中心にした「箱崎まちづくり計画」が策定され、快適で美しい住環境を維持・向上することを目的とした活動が多数展開されている。箱崎キャンパス跡地の再開発(コロナ禍の影響で延期中)にも各方面から注目が集まる。

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