■西新商店街
住所:福岡市早良区西新1・4・5丁目
https://nishijin.fukuoka.jp
まさにDEEP!多様性と人情味に溢れるまち・西新。
今回は「サザエさん発案の地」としても知られる、福岡市早良区西新をピックアップ!西新と言えば昔から続く商店街のイメージが強いが、そこで暮らす人はどういった層で、まちの魅力をどう捉えているのだろう。2017年に西新に焼き菓子店を開いた『くまのみ堂焼菓子店』の店主・熊埜御堂(くまのみどう)さんから、まちの特色について話を伺った。
生活に根付いたまち・西新にはどんな人が住んでいる!?
『くまのみ堂焼菓子店』は地下鉄西新駅から徒歩4分の場所にあり、西新中央商店街を抜け、中西商店街のメイン通りから曲がってすぐの場所。ここは福岡随一の商店街とあって、駅から300mの道のりにたくさんの店が軒を連ね、まちが生き生きと活気に満ちている。歩いているとあちこちからおいしそうな香りがふわり。目的地にたどり着くまでにいろんな立ち寄りスポットを見つけられるのも、西新の商店街の醍醐味だ。熊埜御堂さんもそんなまちの魅力に惹かれて、独立の地に選んだのだろうか?まずはエリア選びの決め手について伺った。
「最初は博多区の古門戸町や祇園町、六本松、西新など、いくつかエリアの候補がありました。ひとりで切り盛りするために適度な広さと賃料が条件でしたが、“生活に根付いたまち”という点もエリア選びのポイントでしたね。ちょうど兄が西新で鍼灸整骨院を営んでいて、私もちょこちょこ訪れてまちに親しみがありましたし、いいタイミングで物件が見つかったことから西新でお店を開くことにしたんです!」
お店を開いて実感した、“まちの発見部分”についても尋ねてみた。
「学生街なので若い人もいれば、ずっとここで暮らしている地元のおじいちゃん・おばあちゃんもいて、西新に暮らす人の年齢層はうちの客層にも表れているなと感じます。どんな人がお店に来るの?と聞かれた時に答えに困るほど幅広くて、老若男女のお客さんがいらっしゃいますね。あと特徴的なのが、お客さんの1/3くらいが東京や大阪から引っ越してきた転勤族の方。西新は転勤族に人気のまちで、校区的にも良いと有名なんです」
西新は修猷館高等学校や西南学院大学をはじめ、一帯の小・中学校も教育熱心で、生徒の学力が高く環境も優れていることから、他のエリアから転入してくる子育て世帯が多いそうだ。またインターナショナルスクールも近くにあることから、海外からの移住者も多いとか。働き盛りの社会人にとっても、地下鉄で博多や福岡空港まで一本で行けるのでアクセスが非常に便利!そういった点で転勤族から注目を集めるエリアなのだ。
「常連さんになってくれた転勤族の方が、1〜2年後に再び異動で引っ越してしまうことも多々。お別れが寂しくはありますが、それと入れ替わるようにまた新しいお客さんが訪れてくださり、うれしい出会いも多いですね。そういった意味で、風通しがよくていい環境だなとも感じています」
行けば行くほど、知れば知るほど、新しい出会いと発見がいっぱい!
熊埜御堂さんは毎日、商店街の裏道や住宅街を通り抜けて徒歩通勤しているそう。メイン通りから一本入った路地裏にも味のある居酒屋が点在し、気がつけば新しい店もオープンしたりしていて、散策気分で楽しいと語る。また低層の建物が多いので、空の広がりを感じられるのも気分がいいとか。
西新の路地裏。こんな場所に名店が潜んでいることも!
老舗ボーリング場『西新パレスボウル』が来年3月閉業予定とあって見納めに来る常連客も多数。建物内のテナントは営業を続けるそうだ
「兄からも聞いていましたが、改めて感じるのは、シニア層のみなさんがとにかく元気!商店街の裏に戸建ての住宅街が広がっていて、そこに住まれている地元の方が多いと思います。西新1丁目の西新オレンジ通り付近には70代くらいのママが営むスナックがいくつかあって、コロナ禍になる前は地元のおじいちゃん・おばあちゃんが喫茶店感覚で通っている姿をよく見かけていました。なんだか平和な感じで微笑ましいですよね!」
商店街のメイン通りには、老舗の飲食店や日用品店に大手チェーン店が挟まれるように建ち並び、多種多様な店がぎゅっと身を寄せ合う。最近では少し離れた場所にショップやカフェなども増え、若い世代が独自のカルチャーを発信する動きも出てきている。「待ち合わせの時間つぶしにもちょうどいい休憩スポットが増えて、個人的にもうれしいです」と熊埜御堂さん。女性ひとりでもフラッと立ち寄れる場所が充実してきているのは、住民にとっても治安面で安心できるポイントだろう。
西新5丁目からほど近い『ニヨルコーヒー』も若者に人気
「聞いた話ですが、昔はうちの店の近くまでリヤカー部隊(※)がズラ〜ッと並んでいたそうですよ。そうそう、毎年10月に行われる『西新勝鷹ゆめまつり』は地下鉄西新駅から藤崎駅までの約1.5kmの商店街が一斉にお祭りムードになるんです!びっくりするほど人が集まって大賑わい!昨年はコロナ禍の影響で中止になりましたが、落ち着いたらまた復活すると願っています」
※リヤカー部隊とは商店街が歩行者天国となる時間帯に現れるリヤカーの出店のこと。西新商店街の名物として親しまれ、現在は西新駅付近にて5〜10台ほど営まれている
西新の商店街では年間行事が盛んに行われていて、主なイベントとしては1月にどんと焼き、3月にホークスの勝鷹必勝祈願祭、7月は子供神輿が現れる夏祭り、そして10月の西新勝鷹ゆめまつり、12月はホークス選手パレードでまちが賑わう。
ちなみに、昨春に緊急事態宣言が出された際は各地の繁華街が一斉に静まり返ったが、西新の商店街は違った。もともと惣菜店や八百屋など販売スタイルの店が多く、飲食店のテイクアウト文化も根付いていたことから、西新だけは灯火が消えることなくまちが生きていたのだ。さらに他の多くの商店街が「シャッター商店街」と呼ばれる時代に、わいわいとした活気と独自の文化を維持し続けているからすごい…!
多彩なカラーで構成された西新。そんなまちを店主らが守り続ける。
「西新でお店をしている人は、だいたいみんな繋がっているんです。店主同士が立ち話している姿や飲食店で乾杯しているシーンをよく見かけますね。あと、お店の人だけでなく、お客さん(住民の方)との繋がりも大切にしていて、その場にいたら誰でも友達になれるフレンドリーな空気感が心地いいなと感じます」
顔を覚えてもらえれば挨拶や話かけられる機会が増え、自然と友達感覚でコミュニケーションを交わせる間柄に。アットホームな西新ならそういった関係性を築きやすいので、友達の輪もすぐに広がるはず!新しく引っ越してきた人や一人暮らしの人も、信頼できる店主やご近所さんを持つことで、生活面で安堵感を抱けそう。
今回は商店街をメインにまちの面白みについて話を伺ったが、西新は1丁目から7丁目まであり、商店街以外の顔ももちろんある。明治通りから北側にあたる2・3・6・7丁目は商店街の雰囲気とは一変し、修猷館高等学校や西南学院大学などが建ち並び、通りも落ち着いた雰囲気に。百道エリアにつながる道とあって、どことなくハイソな空気感。
明治通りから北側のエリアは名門の教育機関が揃い、街並みも整備され美しい佇まい
明治通りから南側は商店街エリアで、1・4丁目は西新オレンジ通り商店街、西新中央商店街が広がり、5丁目は中西商店街、さらに小さな名店街もこまごまと交差する。商店街だけでも多彩な顔ぶれなのに、地域全体を見るとさらにいろんなカラーが入り混じり、一言では説明がつかないから本当にディープなまちだ。
「西新は、住んでいる人たちに多様性のあるまちだと感じます。まちも人もいろんな層が集まってごちゃっとした感じなのに、なぜか絶妙にまとまっているんです。今後も店や人がちょこちょこ入れ替わり、数年後に久しぶりに西新へ訪れたとしても、『あ~、変わってないな』と思えるような場所だと思います。不思議ですよね、でもきっとみんなそう思っているかも(笑)」
熊埜御堂さんが捉えるまちの魅力に、多くの人が共感するだろう。地元の住民から転勤族まで、みんなが“このまちだけは変わらないでいてほしい”と願っているはずだ。西新が幅広い層に愛される理由を、改めて理解できた気がした。