■トモノウコーヒー
住所:福岡市城南区鳥飼5-13-11 1F
TEL:092-851-1134
営業時間:10:00~19:30
定休日:日曜
背伸びせずにいられる、ホームタウンのような鳥飼
鳥飼にいると“暮らしの音”が聞こえてくる。登下校中の学生の笑い声、公共バスのどっしりとしたエンジン音、店主と行き交う人たちの挨拶。一見、どこにでもある街の風景と思うかもしれないが、鳥飼ならではの持ち味があるはず。そこで今回は、鳥飼5丁目商店街に店を構える『PLASE. STORE notebooks』の高山さんのもとへ話を聞きに伺った。
“知らない街”と思っていたけれど、実は“縁のある街”だった。
ノート専門店『PLASE. STORE notebooks』の店主・高山さんが鳥飼に店を開いたのは、2012年のこと。当時を振り返り、「鳥飼を選んだ理由」を尋ねてみると、「きっかけは、そんなポジティブなものじゃなくて…(笑)」と照れながら意外な一言が返ってきた。
もともと桜坂のマンションの一室で、文房具店を立ち上げた高山さん。そこはオートロックマンションだったため、チャイムを鳴らして4階まで上がる必要があった。文房具店にしては敷居が高く、客足も遠のく日々…。この状況に危機感を覚え、1階の路面店舗へ移ることを決意。その物件探しで見つけたのが、今の場所だったそう。
「鳥飼のことはよく知りませんでした。当時はとにかく、“1日でも早く移転したい!”と焦っていましたから、不動産サイトでこの物件を見つけて、内見後、即決に近いスピードで契約(笑)。天神まで自転車で行けるし、地下鉄別府駅も徒歩3分。アクセス的に申し分ないうえ、家賃も安い。最低限の条件がハマッたので、急ぎ足で入居を決めました」
1・2階のメゾネットタイプの物件。1階が高山さんの店舗、2階が知人のフォトスタジオが入居するシェア賃貸
「慌てて鳥飼の物件を決めましたが、内見時にグッとくる発見もありましたよ。大学時代に通っていたアパレルショップのスタッフさん(現『MITAKUYE』店主・瀬口さん)が鳥飼にお店を開いていたんです! 予期せぬ再会にお互いビックリ。そこで一つ、鳥飼に愛着が湧きましたね。そしてもう一つ。ブラックコーヒーが苦手だった僕の味覚を変える衝撃的なコーヒーがあったんですが、その店がたまたま同じ並びにあると…! ご存知の方もいるはず、『TOMONO COFFEE』さんです。当時は移転のことばかり頭にあって、周囲のことまで深く考えていませんでしたが、後になってよくよく思い返すと、鳥飼とは偶然と言い難い運命的な“縁”で結ばれていたように感じます」
“知らない街”と思っていた鳥飼。確かに初めましての街。けれど自分の背中をぽんっと押してくれる頼もしい人たちが、この街にいたのだ。
別府橋を越えるかどうかで、女性は化粧をするか否か決める…!?
鳥飼の路面に店を構えた高山さんは、徐々に地域の特色を実感していった。 子供から年配までいろんな層が行き交うこと。小さな通りだけど公共バスが運行し、交通量が多いこと。近所の人たちが気軽に挨拶を交わし、のんびりとした空気感が漂うこと。アクシデントが起きたらすぐさま周囲の人が駆けつけ、助け合うコミュニティーが築かれていること。
いつもと変わらない、ほのぼのとした平和な日常をSNSにアップ
「鳥飼付近に住む女性の人たちは、樋井川が流れる別府橋を越えるか・越えないかで、メイクをする・しないを決めるそうですよ(笑)。別府橋を越えると六本松〜天神方面に繫がり都会化しますが、橋手前の鳥飼は住宅街なので“オシャレして出かけなくても大丈夫”みたいな。そう、ここは暮らすための街。地域にはおじいちゃん、おばあちゃんをはじめ、お子さん連れもたくさんいて、いい意味で生活感にあふれ、気を張らずゆったり適当に過ごせます。その安堵感が鳥飼の魅力ですね」
そんな地域性を知れば知るほど、ご近所さんに必要とされる店になりたいという願望が、高山さんの中で強くなっていったという。
小学生からのリクエストが多かった「ジャポニカ学習帳」を取り扱うために、2018年にノート専門店へとリニューアルした
「7年前のオープン当初、うちみたいにデザインを楽しむ文房具店は異質で、地元の人からは敬遠されたかもしれません。そんな中、小学生たちは臆せず店に遊びに来てくれて、彼らが純粋なお客さんではないとしても、小さなお子さんが立ち寄ってくれること自体が嬉しくて。こうして地域の子どもたちの成長を見守っていけるのも、鳥飼で商売をする者の楽しみですね」
常に拠り所であり続ける、鳥飼5丁目商店街の存在。
前回の大橋編に引き続き、「街の印象を色に例えるなら?」という質問を高山さんに投げてみた。
「鳥飼を色に例えるなら『黄色』かな。うちの前の通りの鳥飼五丁目商店街は、通称『ぴよぴよ通り』という名で親しまれています。ひよこって黄色だし、街自体の雰囲気が“陽”の印象。そういえば、店も黄色の扉で… あ! 『たこ焼き三丁目』さんと、『TOMONO COFFEE』さんも黄色の店構えですね!」
『PLASE. STORE notebooks』の数軒先にある『たこ焼き三丁目』は、世話好きのオーナー夫妻が明るく迎えてくれるアットホームな店。街の事情に詳しく、いろいろ親身に教えてくれて人情味満点。また、『TOMONO COFFEE』の店主・友納さんは、高山さんにとって良き先輩。「大人になった今、自分をちゃんと叱ってくれるのは友納さんくらい。性格の根っこ部分が僕と似ていて、話も合います。ぶっきらぼうで無愛想だから勘違いされやすいけれど(笑)、コーヒーはおいしいし、本当にいい人です!」と微笑みながら語る。
「ちなみに、セレクトショップ『MITAKUYE』の店主・瀬口さんは男女問わずみんなに愛されるキャラクター。以前は一本奥の通りにお店を構えていましたが、同じ並びに移転されました。いつも笑顔で明るくて、元気をもらえる存在です! お隣のスイーツショップ『EBISUDOH』さんはオープンが1日違いとあって仲良くさせてもらっていますし、向かい側の活版印刷社『文林堂』さんもあって、鳥飼には素敵なお店がたくさんあります!
そしてみんないい人ばかり。この場所を選んでよかったとしみじみ感じますね」
小さなお店が小さな町に集まり、マイペースにそれぞれ商売をしながら、困った時は声を掛け合い、地域の人とともに年輪を重ねていく。新しく住み始める人にとっても、きっとすぐにホームタウン(地元、あるいは住み慣れた町)と同じ安堵感を味わえるはずだ。ここ鳥飼には、多くの人にとって拠り所となる商店街があり、また、頼りになる店主たちが大勢いるから。