極小エリアマガジン
北九州市八幡西区熊手1丁目
#15
Interview
「老舗と新店が肩を寄せ合う、商店街パラダイス・熊手。」
『株式会社三角形』代表取締役・福岡佐知子さん

老舗と新店が肩を寄せ合う、商店街パラダイス・熊手。

明治以降、八幡製鐵所の誕生によって発展した八幡エリア。中でも黒崎は北九州市西部の中心繁華街として知られ、複数のアーケード商店街が放射状に伸びている。今回フォーカスするのはその黒崎の目と鼻の先にある「熊手」地区。商店街の古き良き風景が残る中、最近は若い人が集まる仕掛けが積極的に行われている。その旗振り役であり、自身も熊手エリアにて飲食店を営む「株式会社三角形」の福岡佐知子さんに、地域の魅力を伺った。

「商店街に人を集めるためのプラットフォームになれたら」。

PRの仕事やまちづくりの仕事を本業とする福岡佐知子さんは、事務所を黒崎の隣の地区・熊手エリアに構えている。以前は黒崎駅前のテナントビルに事務所を設けていたが、熊手内の「寿通り商店街」の組合長と出会い、縁あって同商店街に拠点を移した。

「事務所を移す前から、寿通り商店街の地域おこしのお手伝いをしていたんです。イベント時だけでなく、日頃からもっとこの通りに人が集まるようにしたいと思い、まずは自らの拠点を商店街に置くことを決心しました。商店街で日々の営みを重ねながら、一人でも多くの人を呼べるようにしたいなと思って!」

寿通り商店街は、黒崎商店街の中で一番小さな通り

2017年に福岡さんの呼びかけで、寿通り商店街のシャッターの塗装プロジェクトが行われ、暗い雰囲気を放っていたグレーのシャッターをカラフルな色味に刷新!通りの景色がパッと華やかになったことで、通勤路や通学路に利用されるなど行き来しやすいムードとなり、その明るさに誘われて新店舗も増えた。そして福岡さんも本業の傍ら、飲食店のオーナーに!寿通り商店街内にデリカテッセン『コトブキッチン』を開いたのだ。

福岡さんも店に立つデリカテッセン『コトブキッチン』

「日頃からお店のスタッフや近所のオーナーと『この通りをどうやって盛り上げようか』『みんなの暮らしを支えるもの、喜んでもらえるものを提供していきたいね』と話し合っています。商店街では季節に応じていろんなイベントが行われているので、地域の人々もまち歩きや食べ歩きを楽しんでもらえているのでは…!?」

一人暮らしの人も、熊手エリアの商店街に行けばいつもと変わらない景色と、人の温かみを感じられて、ほっと安堵感を抱けるに違いない。

熊手内の「下一通り」で鬼ごっこする子どもたち

「近所の子どもたちは商店街の脇道や抜け道のルートを熟知しているんです。放課後に追いかけっこしながら、ぐるぐると駆け回っています(笑)。商店街は車が通らないので安心して思いっきり遊べるんでしょうね」

「商店街」と「旧長崎街道」を語らずして、熊手エリアは語れない!

放射状に広がる黒崎商店街は、八幡西区黒崎と熊手の2つのエリアをまたぎ、約15の商店街や市場で構成されている。「カムズ名店街」「カムズ一番街」「熊手銀天街」を中心に、複数の小さな商店街が連結。それぞれに特徴があるというから奥が深い…!

街頭に設置されたエリア案内板より

「黒崎駅前のカムズ名店街は洋服屋や時計屋などが連なる“おしゃれの専門店街”的な位置づけですが、その奥の熊手エリアの商店街になると、八百屋・肉屋・魚屋など生活に密着した店が多くなるんですよ」

旧長崎街道の地は「くまで通り」と呼ばれ、古い商店街が広がる

ちなみに、熊手エリアは江戸時代に長崎街道の宿場町(黒崎宿)として栄えたまちでもある。ちょうどエリア内の「下一通り」と「くまで通り」が旧長崎街道にあたることから、商店街としての歴史も古く、まちづくりの基盤を担っている。くまで通りには道路の神様を祀る「興玉神(おきたまのかみ)」があり、宿場の出入り口を意味する「溝口」跡や、旧長崎街道の一部である「曲里(まがり)の松並木」も徒歩圏内。

地域行事も代々継承され、特に有名なのが北九州の三大祇園祭りに数えられる「黒崎祇園山笠」。400年以上続く伝統的な祭りで、熊手地区からは3基の山笠が参加する。動きの激しさや勇ましさから「けんか山笠」とも呼ばれる夏の風物詩だ。

毎年10月には「筑前黒崎宿場まつり」が行われ、商店街や曲里の松並木などを舞台に、長崎街道の宿場町として栄えた地域の歴史や文化を楽しめるイベントが開催される。

老舗から新店まで、人気飲食店が集合。注目エリアとしての期待値がUP!

近隣の住民に愛される、商店街を中心にした熊手エリア。数々の飲食店の中から、福岡さんのおすすめのスポットを教えてもらった。

『かしわ屋くろせ』は、揚げたての唐揚げが名物

まず一軒目は、くまで通りにある昭和25年創業の『かしわ屋くろせ』。テイクアウトの唐揚げや手作りの惣菜が人気だが、ここの「黒瀬のスパイス」が料理好きやキャンパーたちの注目を集め、Amazonのスパイスハーブ部門で人気1位を獲得!「私たちがよく知る地元のローカル店が実は全国区で有名だったなんて」と福岡さんもびっくり。

最近は飲食店のオープンが相次ぎ、遠方からグルメな人々がわざわざ訪れているとか!本格カレー店『タカミカリィ』は、3月に熊手2丁目から1丁目に移転。店主こだわりのスパイスカレーとクラフトジンが楽しめて、舌の肥えたカレー好きが集まっている。また絶品中華を提供する『中華酒場 ゆたか』も、8月に黒崎駅前から熊手に移転。中華の名店『四川飯店』で修業した店主が地元民の胃袋をがっちりキャッチ!

おしゃれなイタリアン酒場『文化商店』も要注目スポット!

そして、くまで通りと千日名店街が交差する角地にあるイタリアン『文化商店』は、8月にオープンしたばかりの話題のスポット。ホテルで腕を磨いた店主が自然派ワインとアラカルトを提供し、オープンするや否や、連日多くの人で賑わう人気店に!

「駅前に比べて家賃や広さなどの条件が良いという理由も相まって、老舗から新店までいろんなお店が集まり、最近さらに面白いエリアになっているなぁと感じます。まちづくりのブランディング用語に、まちの魅力を指す『エリアの期待値が上がる』という言葉があるのですが、熊手エリアはまさにそれ。暮らしに寄り添うお店が集結し、また今後も増えていく予定なので、エリアの期待値がもっと上昇していきそう!」

福岡さんが事務所&飲食店を構える寿通り商店街にも、おしゃれなアパレルショップやフラワーショップ、ギャラリーなどが軒を連ねている。この冬、長屋のように小さなショップが連なる『寿百家店(ことぶきひゃっかてん)』がオープンする予定だとか!

昔ながらの下町の風景に溶け込むように、若いオーナーによる新しい店が増えている熊手エリア。このまちに住む人たちが地域の店を利用し、店も住民のニーズに応えるために創意工夫を凝らす。こうした循環が暮らしの充実度を高め、楽しさを広げて、まちの新しい価値を生み出す。そんな熊手エリアには、心地よい暮らしがしっかりと築かれているのだなと改めて感じた。

Recommend Spot in Kumade

商店街内の素敵な花屋さん。センス溢れるブーケがギフトとして人気

■Flower shop Ikka(イッカ)
住所:北九州市八幡西区熊手1-1-21
TEL:070-3529-2218
営業時間:12:00〜19:00
https://www.instagram.com/flowershop_ikka/

生花をメインに、観葉植物やドライフラワーを販売。コンパクトな店内に所狭しとさまざまな品種が並び、選ぶ楽しさを味わえる。店名の『ikka(一花)』には、“一本の花から想いは伝わる”というメッセージが。福岡さんも「花に対する店主のひたむきな姿勢を感じられて好印象。いろんな方に愛されるお店です」と太鼓判!

I’m Here
コトブキッチン

住所:北九州市八幡西区熊手1-1-30
TEL:093-616-0396
営業時間:12:00~19:00(現在、営業時間短縮中)
定休日:日曜・祝日
https://kotobukitchen.com

約10種類のデリから、好きなものを好きな分だけテイクアウトできる。またデリランチセット(880円)をイートインでき、昼間は満席になることも。クリームソーダ(649円)や自家製フルーツシロップソーダ(594円)、アルコールドリンクも充実し、カフェタイムや0次会にもってこいの場所。自宅で簡単に店の味を再現できるオリジナルの冷凍食品もおすすめ!

〜 エリア紹介:北九州市八幡西区熊手 〜

黒崎とともにエリアの大半が商店街で占められ、複数の小さな商店街(通り)が交差する地域。江戸時代には長崎街道最大の宿場町として繁栄するとともに、商人町としても賑わい、市(いち)が頻繁に開かれていたとか。現在も旧長崎街道の宿場町の面影が残り、歴史を辿るウォーキングコースが整備されている。1・2丁目は商店街、3丁目は飲食店やマンションが軒を連ねる。JR九州「黒崎駅」から徒歩5分ほどとアクセスがいいことから、一人暮らしやヤングファミリー層に人気。

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