■マシュカ
住所:福岡市早良区南庄2-21-20
TEL:092-822-7765
営業時間:10:00~19:00
定休日:日祝日
優しさがあちこちに伝播するまち・南庄の知られざる魅力。
福岡市営地下鉄「室見駅」を降りて、室見川を眺めながら南へと向かう。河川敷を5分ほど歩くと、今回の目的地・南庄(みなみしょう)エリアに突入する。ここはいわゆる住宅街だが、その閑静なムードに潜む、まちの個性や魅力とはどんなものだろう。「住んで初めて気づいたことがたくさんあります!」と語る、『うつわ屋フランジパニ』のオーナー・地蔵(ちくら)さん夫妻から、南庄のいろんな特色を聞いてみたい。
南庄を知れば知るほど、穏やかな住み心地に惹かれていった。
もともと姪の浜で器屋を営んでいた『フランジパニ』のオーナー・地蔵さん夫妻。南庄に移転したのは2012年9月。移転理由は「暮らしながら営業したい」という思いから。もっと地に足の着いた環境で実生活と店舗運営を両立できるように、子育てしやすいエリアで自宅兼店舗を構えることにした。
移転前まで南庄について具体的な情報を持たず、エリアの場所も把握できていなかったとか。今の住居の内見に訪れた際、室見駅から意外と近いことを知り、それでいてのんびりとしたまちの空気感に惹かれたそう。
「以前の僕たちみたいに、多くの方が南庄のことを知らないと思うんです。でも住み始めて、認知度が低い理由がわかりましたよ。きっとね、南庄に住む人たちはまちの良さをずっと隠していたんじゃないかな(笑)。もともと南庄は空き物件が少なくて、空きが出てもエリア内の住民の方がすぐに申し込んでいる気がします。それほど、一度南庄に住んだら、なが〜く住み続けたくなる魅力がたっぷり。このまちの雰囲気を守りたくて、住民は南庄について多くを語らず、秘密にしていたのかなって思いました」とご主人・俊一郎さんは笑う。
「近くに24時間営業スーパーやコンビニ、ドラッグストアもあり、必要なものをサッと買いに行けて快適です。周りのお客さんを見ていると、せかせかしていなくて、穏やかな人が多いなとも。ちょっと体が当たったら『すみません』と言い合ったり、常に道を譲ったり、年配者を気遣うシーンもよく見かけます。周りに優しくされたら自分も優しくしたいと思えますよね。そんな思いやりが集まったまちです」と奥様・朋子さん。
住まいの目の前が通学路とあって、子どもたちが笑いながら走る様子や元気に挨拶する声、リコーダーの音色などが聞こえてくる。遠くから聞こえる掛け声や赤ちゃんの泣き声さえ、地蔵さんは愛おしく感じるという。「年配の方も理解がある方がたくさんいらっしゃって、周りの子育てを静かに見守ってくださっています。おかげで僕たちも自然体でいられるし、とても心地いい環境ですね」と二人でにっこり。
季節の始まりを告げてくれる、室見川の風物詩たち。
南庄には10以上の公園があり、地蔵さん夫妻のお子様が通っていた原北小学校の校区にはなんと6つも! 特徴がそれぞれあり、子供たちも気分によって行く公園を使い分けているとか。グラウンドを併設する「原北公園」を中心に、ひこうき公園の名で親しまれている「南庄西公園」や、緑豊かな「室見東公園」が人気の遊び場に。
遊具が充実している「原北公園」。隣のグラウンドで毎冬餅つき大会が行われる
福岡県出身の人気アーティストの楽曲にもよく登場する「室見川」も、重要なまちのシンボル。『フランジパニ』から徒歩4分。室見川に到着すると一気に景色が開け、空も広く感じられる。北側は福岡タワーやドームが並ぶ都会的な景色、南側は雄大な脊振山地をバックにした長閑な景色。河川敷がランニング&ウォーキングコースになっていて、一日中多くの人が集う。
俊一郎さんは毎朝室見川周辺を散歩するのが日課。
毎年2月頃になると室見川にシロウオ漁の仕掛け・簗(ヤナ)が組まれ、3〜4月上旬に漁が行われる。その光景を見て、住民は「もうすぐ春がくる」と感じるのだとか。また、4月中旬〜5月のGW頃は、100〜200人が一斉に潮干狩りする姿が見られ、梅雨明けと同時に公園や川沿いの緑地からセミの鳴き声があがる。室見川に赤とんぼが飛び始めたら秋が始まる合図に。
俊一郎さんは、一部の住民しか知らない自然豊かな穴場をこっそり教えてくれた。それは団地間の小さな緑道で、絵本で見るような幻想的な木のトンネルが広がる。ここを抜けると室見川に繋がるので、住宅街から室見川にワープするような感覚。俊一郎さんはこの場所で森林浴気分を味わいながら日課の散歩を楽しんでいるそうだ。「春は桜のトンネルになるんですよ。花見スポットと言えば室見河畔の桜並木が有名ですが、ここは団地の住民以外ほとんど知られていないからこそ、誰にも邪魔されず花見ができるとっておきの場所。他にも、南庄には知る人ぞ知る名所がたくさん潜んでいると思います」
場所は南庄5丁目「室見西公園」近く。「この場所にくると田舎にいるような気分」
丁寧に暮らす人が集まり、そんな大人たちがまちを優しく見守る。
「同級生の子の親が、幅広い年齢層だったりします。うちも、子どもの友だちの親御さんと10歳くらい離れていて、いい意味で適度な距離感で、気楽な関係を築けていますね。まちの人口密度や建物の間隔も近すぎず、遠すぎず、ちょうどいい。友好的でありながら干渉し合わない理想の関係は、これらのベストな距離感にあるかもしれません」とご主人。
また南庄へ移転してから、この地域には丁寧な暮らしをしている人が多いことに気づいたという。 ふらっと店に訪れたご近所のお客さんが、器を手に取り、「使ってみようかしら」とそのまま購入に至るケースも多々。彩り豊かな食卓づくりを楽しみ、暮らしへの感度が高い。そういった丁寧に生活する住人が集まることで、治安の良さが築かれているのかもしれない。
「夕方5〜6時に『夕焼け小焼け』のミュージックチャイムが放送されるんです。懐かしいでしょう? そのチャイムを聞くと、公園で遊んでいた小学生たちが『じゃあね!』と帰宅し、きれいさっぱり公園からいなくなります。もし外に残っている子がいたら、近所のおじいちゃん・おばあちゃんが声をかけてくれることも。別の地域に住んでいた時は、暗くなっても子どもたちがずっと外で遊んでいる姿を見かけていたので、この南庄の規律の良さにはびっくりしました」
不審者が現れないように住民が日頃から目をかけて、道路を清掃しながら治安を守ってくれている。校区の運動会や餅つき大会などの地域行事も毎年行われ、家族ぐるみでコミュニティに参加できるのもうれしい。
「南庄での暮らしをとても気に入っています。住み始めて8年経ちますが、これまでの8年間をまた繰り返すような気持ちで過ごしていきたい。そんな毎日の積み重ねを大切に感じますし、南庄で長年商売をされてきた上の世代の背中を眺めながら、僕たちらしく頑張っていこうと思います。まちの見守り役としてのバトンも引き継いでいきたいですね」と俊一郎さん。
「近所のパン屋さんに、ふわっと優しい雰囲気の奥様がいるんです。『マシュカ』という名前のパン屋さんなんですけど、私もあんな風になりたいなぁと思いながら、自分たちの将来像と重ね合わせています」と朋子さん。
子供を呼ぶ声が聞こえたり、夕食のにおいがしたり、日常が垣間見える、昔ながらの店舗兼住居の営みを続けていきたいと語る地蔵さん夫妻。「この先も、近所の子たちから器屋のおっちゃんと呼ばれたいですね」と屈託のない表情で語る俊一郎さんと、そんなご主人を優しく見守る朋子さんの姿が、南庄の温和な空気感を表しているように感じた。