■LOMBRAGE BIGARRE 白木原店(ロンブラージュ・ビガレ)
住所:大野城市白木原1-7-14
TEL:092-582-8819
営業時間:7:30~19:00(売り切れ次第閉店)
定休日:なし
https://www.facebook.com/LOMBRAGEBIGARRE/
「都会と田舎の中間地点、白木原の絶好バランス。」
今回は、大野城市に行ったらぜひ会ってみたい店主のもとへ伺った。住所は、白木原。都会から一歩離れている環境の中わざわざでも行きたい名店が点在し、まちの面白みもたくさん潜んでいる。自家焙煎コーヒー豆専門店『豆香洞(とうかどう)コーヒー』もその一つだ。「焙煎士の世界チャンピオン・後藤直紀さんの店が白木原にあるなんて…!」と驚く人も多い。そこで、後藤さんがここ白木原で店を始めた理由や、まちの魅力をどう捉えているか、さまざまな話を聞いてみた。
「すべては焙煎機のために」。白木原に腰を据えて気づいたことは?
『豆香洞コーヒー』のオーナー・後藤直紀さんは、独立当初は無店舗でコーヒー豆を販売していたが、2008年に念願叶って大野城市に店舗を開いた。当時も白木原に住んでいたわけではなかった後藤さんが、出店先にこのまちを選んだ理由は何だったのだろう。
「最初は自宅付近で焙煎機を置ける不動産物件を探していたのですが、理想の物件がなかなかなくて。というのも、焙煎機の煙突(L字型煙突)には、縦と横の長さに黄金比があるんです。煙突が長すぎても、短すぎてもいけない。さらに隣接する建物との兼ね合いや、店舗の広さも考えると、物件探しにはとても苦労しましたね」
焙煎中は煙が出るので、住宅が密集する場所や人が行き来する都会だと、なかなか環境的に難しい。だから繁華街から少し離れる必要があった。福岡市内を中心に、大野城市や那珂川市、春日市など、500軒ものテナント物件を洗い出し、条件と合致したのはわずか4軒。屋形原、友丘、那珂川、そして白木原の物件だった。
エリアが異なる4軒を検討した際、大野城市白木原にあるこの物件は、のんびりとした環境が好印象だったと語る。今は目の前で高架工事が行われているが、後藤さんが初めて訪れた12年前は、地上にローカル線が走るゆったりした風景だったそう。「その頃はごくごく普通の地上線路で、線路沿いの柵に植木鉢をかけられ、花々がわ〜っと広がり、それに沿って西鉄電車が走るという景色でした。長閑な雰囲気に包まれ、のんびり気持ちよく仕事ができそうだなと感じたんです」。こうして、後藤さんはこの場所を選んだ。
直感に従った物件選びは間違ってなかった。
「焙煎機の黄金比のおかげもあり、今も安定していい焙煎ができています。そうだ、線路の高架工事が完了したら高架下に公共・公益施設などができるそうですよ。“人が集まれる場所にしよう”と市が計画しているみたいで、とても楽しみです」
住民を主役に、老若男女がバランスよく元気に暮らすまち。
土地勘も前知識もないまま白木原にやってきたことで、常に新鮮な感覚でいられたという後藤さん。都会に比べて商店会の結束力が強く、若い力も加わってアクティブに運営されていることを知った。「自分たちのまちを盛り上げたい!」「どうすれば住民の方が喜んでくれるか?」、そんな商店会メンバーの想いが一つになった白木原では、精力的に商店会主催の祭りが開催され、地域内のレンタル傘運動なども展開されている。
「西鉄白木原駅の周りを見ても商業施設が建ち並ぶというより、マンションや戸建てが多い“暮らしのまち”なんです。飲食店にしてもチェーン展開の店より、地元の常連さんに愛されている個人経営のお店が多くて個性派ぞろい。あと、住人の方々も好奇心旺盛! うちのお客さんには天神・博多に通勤している方がたくさんいて、『〇〇が流行っているよ』『話題の△△を食べてみたよ』など、外からのいろんな情報をもらえて楽しいです」
今年で12年、白木原でコーヒー豆専門店を営み続けて実感したことがある。それは、想像以上に自宅でコーヒーを飲む人が多いこと。“こだわりのコーヒー豆で淹れた、とっておきの一杯を楽しむ”。そんなライフスタイルを日頃から大切にしている人は、時間や気持ち、金銭面など、どこかに余裕がある人だ。このまちの住民は、コーヒーを味わう時間を習慣にしている人が多く、時間や心にゆとりがあり、生活を楽しむためのさまざまなバランスが整っている。後藤さんの目にはそう映るそうだ。
さらに年々駅を中心にマンションが増え、ヤングファミリー層の伸び率が上がってきている。「昔から住んでいらっしゃる地元の方や、長く商売を営まれているお店も多く、一方で新しい住民の方や若い店主の店も増えてきましたね。単身からファミリーまで老若男女いろんな層が集まり、元気なまちになっていると感じます」。
ちなみに後藤さんは、2013年に焙煎技術を競う国際大会で日本人初の世界チャンピオンに! コーヒー業界で一目置かれ、イベント出店や焙煎セミナーのオファーが相次ぎ、店舗にも福岡市内や県外からわざわざ人が集まる。ただし、どんなに全国区で有名になろうと、“まちのコーヒー豆屋さん”という実直な姿勢は変わらない。
「このまちで商売をしているので、最後まで長く親しんでもらえるのはやっぱり地域の方々。そんな近所の常連さんのために僕らはコーヒーを作っているわけです。スタッフにも常々、『うちはこのまちの“家庭のコーヒー”を任されているんだよ』と話しています」
しっかりと根付く地元愛が、白木原をもっと賑やかにする…!
秋の恒例イベントとなっている大野城市の商店を集めた「まどかフェスティバル」(通称:産業展)は毎年大盛況! 出店ブースや各種イベントに多くの人が駆けつけ賑わいを見せている。地方のイベントの中には年々縮小傾向になるものもあるが、「まどかフェスティバル」は来場者が右肩上がり。ちょうど他のイベントと重なるハイシーズンであるにもかかわらず、地元で楽しもう! という人が大勢いて、地元愛の強さが伝わる。そして昭和57年から続く伝統行事、「おおの山城大文字まつり」も有名。「以前南区に住んでいたのですが、毎年9月下旬、遠くの山に“大”の文字が灯るのを見て、『あれは何だろう』と幼い頃から気になっていたんです。まさか自分がその四王寺山の下で商売をすることになるとは(笑)」と後藤さんは笑う。
「まどかフェスティバル」の様子。数々の出店やステージショーなどで盛り上がる
飲食店や物販店が元気に営まれているのも、住民の地元愛の表れ。列車を使えば天神・博多に15〜20分でアクセスできるとあって、買い物も外食も幅広い選択肢を持つ中、大半は白木原で消費されている。その理由は、白木原の一軒一軒のクオリティが高いからだろう。都会にも地元にもフットワーク軽く回れる土地柄、地元のお店も都会と勝負しながら腕を磨き、良質なものを提供している。だから白木原には名店と評される飲食店が多く存在し、地元客の心を掴んで離さないわけだ。本格フレンチ『BISTROT HUIT(ビストロ ユイット)』、豚まん専門店『太平閣 (たいへいかく)』など、舌の肥えた食通も太鼓判を押す店が集結している。
全国区で人気の豚まん専門店『太平閣』。
のんびりとした雰囲気に惹かれてやってきた後藤さんだが、想像より“田舎”ではなかったと語る。幅広いジャンルの店舗が軒を連ね、鉄道・空港・高速I.C.と交通アクセスもばっちり。快適に暮らせて、新しい情報もリズムよく飛び交う。それでいて都市部や副都心ほど忙(せわ)しさはない。
「白木原駅は急行や特急が停まらない普通列車の停車駅なので、ここに降り立つのは地元民がほとんど。人の流れも時間の流れも早すぎず、ゆっくりすぎず、絶妙なスピードなんです。福岡市内で例えると、平尾や高宮に近い感じでしょうか。どこかゆとりがあったり、一本路地に入ると面白いお店が潜んでいたり、のんびりした感じと適度な刺激が調和して面白いまちですよ!」
2〜3年後には『豆香洞コーヒー』前の高架工事が完成し、また一つ新しい白木原の顔を覗かせるだろう。地域住民が地元を楽しむ姿があちこちで見られ、これからますます活性化して元気になっていくはず。後藤さんの話からも白木原が高いポテンシャルを持つことをしっかりと感じ取れた。