■MIDLE. (ミドル)
住所:太宰府市宰府3-2-10
TEL:092-922-8325
営業時間:11:00~18:00(事前にInstagramで要確認)
定休日:木・金曜
https://www.instagram.com/midle.2017/
「本当の豊かさとは何か。太宰府暮らしで実感できたこと。」
小雨がぱらつく某日、しっとりとした新緑が美しい太宰府市にやってきた。西鉄太宰府駅のホームに降り立った瞬間から、太宰府天満宮のムードが広がり、独特の高揚感に包まれる。石畳の参道も、視線の奥に広がる生い茂る木々も、カシャンカシャンと梅ヶ枝餅を焼く機械音まで、すべてが非日常のような気分にさせるから不思議。学問の神様のお膝元、太宰府。ここで暮らす人は、どんな感覚で毎日過ごしているのだろう。まちに根付く風習や住人目線の日常を覗くことで、太宰府の新しさを見つけてみたい。
自然と神様を近くに感じながら過ごした、幼少期の思い出。
2歳から高校時代まで、太宰府で暮らしていたセレクトショップオーナーの座親淑美さん。深い歴史を持つ福岡随一の観光都市で育った座親さんに、幼い頃の地元の思い出を聞いてみた。
「太宰府では、太宰府天満宮の神事に絡めた行事が一年を通してたくさんあるんですよ。子供の頃は『夏越祭り』が大好きでした。毎年7月24・25日に菅原道真公の生誕をお祝いする夏祭りで、浴衣を着て集まって、金魚すくいをしたり、おみくじをひいたり、盆踊りをしたり…。夏の無病息災を願う『夏越の祓(なごしのはらえ)』という神事も行われるんです」
また、1月7日に行われる「鷽替神事 (うそかえしんじ)」と「鬼すべ神事」も印象的だと語る。この二つはさまざまな催しの中でも特殊な神事で、地元の人々はもちろん、県外からも多くの見物客が訪れる。
太宰府の民芸品として親しまれている“木うそ”
「太宰府では、幸運を招く鳥・うそをモチーフにした民芸品“木うそ”を一家に一体、神棚などに飾る文化があります。『鷽替神事』は、その“木うそ”を毎年新しいものに取り替えることで、それまでの災いや悪いことを“うそ”にして、新年に開運を招こうというもの。巨大な“うそ”のモニュメントの周りを、おしくらまんじゅうのようにグルグル回るんです。『替えましょう、替えましょう』と言って、暗闇の中で隣の人と“木うそ”を交換し合うのですが、一見するとシュールで面白いですよ(笑)」
「鷽替神事」の後は「鬼すべ神事」へ。「鬼すべ神事」は日本三大火祭りの一つで、災難消除や開運招福を祈願する神事。約300人の男性陣が「鬼じゃ、鬼じゃ」の掛け声とともに、大きな鬼松明(おにたいまつ)を左右に振りながら参道を練り歩き、境内の「鬼すべ堂」前で火の粉が舞う中せめぎ合い、火柱が上がる迫力のクライマックスを迎える。
「太宰府は『神様(天神様)のまち』と呼ばれていますよね。伝統的な神事が季節ごとに行われ、私たちも目に見えないものを信じて、無病息災や家内安全を祈り続ける。まち全体に根付くこの風習がなんだか神秘的であり、魅力的だなと思います」
清々しさと心地いい環境に惹かれ、地元・太宰府へリターン。
大学進学のタイミングで実家を離れ、そのまま20年ほど福岡市内の市街地に住み、職場から徒歩5分圏内のマンションで快適に暮らしていた座親さん。商業施設やビルに囲まれた都会は、トレンドや好奇心の刺激が多くて楽しいものの、四季折々の景色を愛でる機会はやはり少なかった。
「これまでずっとファッション業界に携わってきて、商品のバイイングもやっていたので、常に半年先、一年先のことを考える毎日でした。仕事柄、冬が始まる頃に春服を着たりしていて、ふと『あれ、今の季節って何だっけ?』と混乱することも(笑)。一年先のアイテムやトレンドを追いかけることは楽しくて、ファッションの仕事も大好きでしたが、私自身が“今”の季節感を味わえていないという状況に違和感が生まれて…。だんだん『地に足をつけたい! 季節をちゃんと感じられる場所で暮らしたい!』という思いが強くなっていきました」
もともと田舎育ちだったこともあり、座親さんの中で自然を求める気持ちが募り、住まいを太宰府に戻すことを決意。2014年、空き家となっていた実家隣のマンションを引き継ぎ、太宰府暮らしをリ・スタートさせた。
「朝起きたらカーテンを開けて、四王寺山と宝満山を眺めることから一日が始まります。朝日が昇る景色に心が癒されるし、自然とパワーをもらえるんです! あと、仕事帰りに天神や薬院で食事をして、遅くまでお酒を楽しんだとしても、太宰府にちゃんと帰りたくなるんですよね。太宰府駅に着くと、漆黒の夜空にキラキラと星が輝いて、凛とした空気感もすごく気持ちよくて、『帰ってきてよかった』とホッとします。天神界隈に住んでいた頃は、ほろ酔いで帰ってそのままバタン!とベッドに倒れ込んでいましたが(笑)、太宰府に住むようになってからは、美しい朝と清らかな夜を肌で感じ、心身ともにすごく健やかでいられています」
太宰府暮らしを再開して4年後、座親さんはご主人との間に子供を授かり、「もっともっと地に足をつけたい!」という欲求が湧き上がってきたそう。自身のセレクトショップの移転先を天神周辺で探したけれど理想的な物件が見つからず、「いずれここでお店を…」と長年温めていた太宰府のある建物を選んだ。
新たに開いた複合施設は、太宰府天満宮の参道を曲がってすぐの場所。
実は座親さんが営む『ALBICOCCA』の建物は、もともと座親さんのお父様が鍼灸・整骨院と漢方薬局を営んでいた場所。ここで両親が一生懸命仕事に励む姿を見てきたからこそ、襟を正すような気持ちで、信念を強く持ち、しっかり頑張っていこうと思えるという。
「太宰府に住まいを移した時と同じですよね。スペースの広さ、光の入り方も条件にありましたが、特に周りの空気感を大事にしたかった。人が密集しすぎず、ちょっとのんびりしたムードがあって、仕事を永くできる場所。住まいだけでなく、仕事の拠点としても太宰府は自分のリズムと合う気がしたんです」
自然も、食も、人も、歴史も。豊かさに満ち溢れたまち。
5月から香椎駅前2丁目で店を立ち上げる小林さん。実はその場所は、小林さんがコーヒーの道を志すきっかけとなった縁深い地だ。
東京でインテリア&雑貨のセレクトショップを営むご主人と結婚し、今では太宰府をメインとした東京との二拠点暮らしをする座親さん。子供の頃とは異なる、今改めて気づく地元の魅力があるならどんな部分だろう?
「いろんな面で、豊かなまちだなと気づきましたね。とにかく自然が豊かだから子供を連れて行く場所に困らない。山も川も広場もあって散歩コースもたくさん! 気候がいい季節は『大宰府政庁跡』でピクニックを楽しみます。春は桜、梅雨は紫陽花、秋は紅葉が美しくて、広大な芝生の上でのんびり過ごしていますよ。そして、食も豊か! 畑仕事をしている人が多いので、とれたての野菜が手頃に揃い、近くの直売所では思わず声を上げるほど新鮮野菜が充実しています。みずみずしくておいしくて、もりっと鮮やかな姿形は見ているだけで元気になれます!」
ご主人は生まれも育ちも東京で、生粋の都会っ子。結婚した当初は、都会と比べると太宰府が物足りないように見えたが、今では山がきれいに見える日は、山が見える位置にテーブルを置き、そこで朝食をとることが習慣になったとか。
「夫も雄大な自然に癒されているんでしょうね。子どもと水遊びをしたり、畑をいじったり、あちこちで伸び伸びと遊べるので、太宰府への愛着が深まっているように感じます。『初めて帰省する場所(心癒される自分の居場所)ができた』と喜んでいました」
最後に、このまちを色で例えるなら何色? という質問を投げてみた。
「私の中で太宰府ってカラフルなんです! 一色に絞れなくて、緑の時もあれば、うぐいす色、ピンク、赤の時もある…。なぜこんなにカラフルなイメージなのか考えたら、自然に恵まれているからだと気づきました。春は梅と桜のピンク、初夏はショウブの紫と鮮やかなグリーン、秋は紅葉、冬は盆地とあって積雪で真っ白な銀世界に。季節ごとに移り変わる色彩の美しさに胸がときめき、心が解れ、いろんな発見で満ち溢れているんです!」
「長く住んでも飽きないし、いつだって楽しめるまちだなと感じます」と座親さん。そのいきいきとした健やかな笑顔は、太宰府の趣と魅力を映し出しているように見えた。