極小エリアマガジン
大手門1丁目
#7
Interview
「都会の大手門、下町の大手門。新しい素顔に触れる。」
手紙用品店『Linde CARTONNAGE』 オーナー 瀬口 賢一

都会の大手門、下町の大手門。新しい素顔に触れる。

福岡市中央区大手門。このまちに対して、人はどんなイメージを思い浮かべるだろう。平和台陸上競技場、福岡城、春の桜並木、高層のオフィスビル、あるいは天神と西新を結ぶ大通りの印象も強いかもしれない。外から訪れる人にとっては生活感が薄いように感じるけれど、包まれたベールの奥には、ローカル感満載の暮らしが息づいているようだ。さて今回は、そんな大手門に店を構え、同エリアに住む瀬口賢一さんから、このまちの隠れた魅力とリアルな住み心地について話を伺おう。

都会と自然が重なる場所。大手門で見つけた、とっておきの空間。

大学卒業後に地元の出版社に入社し、タウン情報誌の制作に長年携わってきた瀬口賢一さん。2007年にフリーランスの編集者となり、2014年に手紙用品店『Linde CARTONNAGE(リンデ カルトナージュ)』を大手門に開店。編集者、ライター、店主、時に講師の顔も持ち、“紙と文”のクリエイティブを生業にしている。

初めての店舗を構える際に、なぜ大手門を選んだのか、その理由を尋ねてみた。「お店のコンセプトは、“手紙を通したコミュニケーションの提案”です。取り扱うのはペーパーアイテムと万年筆、そして風合い豊かなインク。“手紙”という性質上、なるべくゆったりできる空間で、周りも落ち着いた環境がいいと思いました」と瀬口さん。そんな拠点に対する理想をあげた時に、真っ先に思い浮かんだのが大手門だった。

「不動産屋さんに作りたい店のイメージを伝えたら、『その条件に合うのはココ!』と、即答レベルでこの物件を紹介してもらいました。とはいえ、まだ他の物件と見比べてないし、周辺環境や人の流れも把握できてない状況。さらに1階じゃなく人目につきにくい2階でしょう…。提案された時は内心『どうかな〜』と思いましたが、この空間に足を踏み入れて、目の前の景色を見た瞬間、考えがスッと変わりました。『自分の力で、どうにか人の流れを作ってみよう』、とね」

店の入り口からの眺め。目の前に福岡城(潮見櫓)が鎮座する

すぐ近くに舞鶴公園や大濠公園、福岡城、美術館などの文化財が点在し、都会にありながら四季折々の景色を感じられるロケーション。また隣には、同世代の店主が営むライフスタイルショップが入居し、似たような境遇の仲間がいることも心強く感じたとか。こうして大手門への愛着は、想像以上に加速して深まっていった。

隣に入居する『LIFE IN THE GOODS.』の店主とは、兄弟のような関係性

店を開き、住み始めてようやく、このまちの素顔を知る。

瀬口さんに、「まちの印象」を尋ねてみた。かつて入居前に抱いていた大手門のイメージは「明治通り」だったそうで、天神から大濠公園や西方面へ行く際の“通過点”という印象だったとか。

「大手門自体に強い思い入れはあまりなくて、移動中にきれいな景色があるな〜くらいの淡いイメージでした(笑)。都会と自然の情景が溶け込んでいて素晴らしいと思う反面、どんな人々が暮らしているかはいまいち見えない。ちょっと無機質というか、生活感がない印象がありましたね。だからこそ店を営んでいる者としては、どんなお客さんが来るんだろう!? と期待が膨らみました。そういう想像を超える出会いの楽しみは、今も持ち続けています」

近年では、“センスのあるまち”としてフォーカスされることが多い大手門。細い路地に『クロマニヨン』や『焼とり 鳥次』といった食通を唸らせる名店が並び、瀬口さんが営む『Linde CARTONNAGE』をはじめ、ライフスタイルショップ『LIFE IN THE GOODS.』や、レディスのアパレルショップ『AULA』、コーヒーショップ『TWEENER COFFEE』など、大手門の顔となる素敵な店が集合し、最近では新たにスパイスカレーとクラフトビールの店も登場している。センスがいいうえに、衣食住をひと通り楽しめるまちと認知され始め、注目度がますます上がってきている。

近所の『TWEENER COFFEE』に訪れ、店主と立ち話するのも楽しみの一つ

ちなみに瀬口さんは開業後、店の近所に住まいを移し、大手門の住民となった。そこで新たに気づいたまちの魅力が多々あるという。

「前述のように、大手門に無機質なムードを感じていましたが、住民になってからは有機的な地域性があることに気づきましたね」と瀬口さん。昭和通りと那の津通りの間には、昔から続く肉屋やパン屋、スーパーマーケット、クリーニング店、花屋などがぎゅっとひしめき合い、暮らしに必要なものが十分揃っている。

大手門住民のお気に入り、『肉のアンデス』の焼き鳥。

「さっぱりとした都会的な雰囲気もありますが、その裏にはしっかりと“時代の一番後ろにいる人たち”が残っているんです。“時代の一番後ろ”というのは、トレンドとは真逆の“アナログタイプの人たち”。例えば、『喫茶 雲』。日課のごとくモーニングコーヒーを飲みながら新聞を読む年配客の姿が、毎日見られます。近所のスーパーマーケット『ハザマ』もローカル感満載で、レジのおばちゃんが必ず声をかけてくれます。そんな土着的な空気感にホッとしますし、 “時代の一番後ろにいる人たち”の営みが、時代に左右されず今も根付いていることが僕にとっては嬉しいことなんです」

昭和から時が止まったみたいに、ノスタルジックな雰囲気が漂う『喫茶 雲』

また、タワーマンションが続々と建ち並ぶ大通りでも、心温まる人の優しさに触れる機会があったという。

「急な雨に立ち往生していたら、高層マンションの住民の方が『よかったら傘をどうぞ』と差し出してくれたんです。今風の高級マンションだったので生活感とは無縁そうな印象でしたが、人の温もりが息づいていることを実感しました。そして、住民同士の温かい交流が築かれたまちなんだなと、改めて大手門を誇らしく感じました」

新生活も、やっぱりここ。「好きです、大手門」!

住まいが手狭になったことで、大手門の中で引っ越しをした瀬口さん。通勤アクセスのメリットはあるにせよ、転居先に再び大手門を選んだ理由があったのか。

「引っ越し前に、今後子どもを授かったときのことを想像したんですよ。その時に『大手門は子育てを応援してくれる地域性があるかも』と思ったんです。というのも、自治会が積極的に子ども向けのイベントを企画し、公民館や公園でも地域交流の催しが行われています。実際に引っ越し先のマンションでは、両隣のおばあちゃんが子どもをよく可愛がってくれているんです!」

瀬口家の散歩コース。休日は子ども連れで賑わう「簀子公園」

第一子が誕生した瀬口家は、休日の散歩が家族団らんの時間。大濠公園を歩きながら、美術館の展示を観て、ぐるっと一周してリフレッシュ。近所の『TWEENER COFFEE』の店主も昨年子どもを授かり、同い年の子を持つ親同士、子育ての話で盛り上がるとか。他にも家族ぐるみで仲のいい店主が近くにたくさんいて、声をかけ合う日々が続く。

天神と大濠を結ぶまち、大手門。「自分の店がこのまちの一色となればいいな」と語っていた瀬口さんに、これからの展望について伺った。

「日頃から楽しいことをいろいろ思い描いています。今後は店で印刷物を作りながら、カルチャーが生まれる場所に育てていきたいですね。僕らが若い頃に憧れていたような、些細なことも話せて頼りになる店主になりたいし、“何かやりたい!”という人が気軽に利用できる店にしていきたいと思っています」

大手門に惹かれ、店も住まいもこのまちを選んだ瀬口さん。四季折々の美しいシーンと、大手門の人々の営み、まち全体の魅力について熟知する張本人だ。もしも、大手門についてもっと知りたいなら、福岡城が眺められるこの場所を訪れてみるといい。新しい発見をたくさんもらえるに違いない。

Recommend Spot in Otemon

買い食いにも持ってこい! 良心価格でおいしい精肉店の焼き鳥。

■肉のアンデス 大手門店
住所:福岡市中央区大手門3-10-1
TEL:092-725-6077
営業時間:9:00~21:00(月曜のみ〜19:30)
定休日:不定休

創業40年余りの精肉店。焼き鳥コーナーを併設し、注文後にその場で焼き直し、アツアツの焼き串を提供してくれる(1本80円〜)。買い食いして小腹を満たすもよし、晩ごはんの一品に添えるもよし。精肉コーナーの味付きハンバーグもおすすめ。1個150円と良心価格で、自宅で焼くだけだから手軽で簡単。忙しい毎日に活力を与えてくれる“大手門の台所”だ。

I’m Here!
Linde CARTONNAGE(リンデ カルトナージュ)

住所:福岡市中央区大手門1-8-11 サンフルノビル2F
TEL:092-725-7745
営業時間:11:00~20:00
定休日:不定休
http://linde-cartonnage.com/

「手紙」をテーマに、便箋やカード、封筒、万年筆、インクなど、オリジナル製品と国内外から集めたアイテムを揃える。書き味を試したい人や、手紙をしたためたい人のために、窓際に特等席を用意。ゆっくりとした空間の中で、モノやヒトに思いを馳せながら、好きな色や紙を選んでみてはいかが。活版印刷の名刺やリソグラフ印刷のペーパーアイテムもオーダー可能。

〜 エリア紹介:大手門 〜

福岡市中央区のセンター上部に位置し、舞鶴公園や福岡市営平和台陸上競技場が隣接。天神までのアクセスが非常によく、バスや自転車で10分程度、徒歩だと20分程度でスムーズに行き来できる。地下鉄の最寄り駅は「大濠公園駅」「赤坂駅」となり、博多駅や福岡空港まで直通で行けるのもメリット。大手門1丁目はオフィスビルやテナントビルが多く、2・3丁目はマンションや一軒家といった住宅街のムードが漂う。簀子公園や浜の町公園と大濠公園が近くにあり、賃貸・分譲マンションはファミリー層にも人気。

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