■奥村商店
住所:福岡市博多区中呉服町2-24
TEL:092-281-1578
営業時間:9:00〜18:00
定休日: 日祝日
まちの文化・風習から四季を感じる、中呉服町の日常。
博多駅からスパンとまっすぐ伸びる大博通り。さまざまなオフィスビルが建ち並ぶ大通りから一本入ると、歴史的な寺や小さな商店が息をひそめるように佇む情緒的な風景が広がる。ここは福岡の伝統文化を今に伝える「博多旧市街(オールドタウン)」の一角であり、昔から店を営む店主たちが暮らす「中呉服町」だ。歩いてみると、足早に行き交う大通りとは一変し、静寂で和やかなムードに切り替わることに気づく。この中呉服町での暮らしとは一体どのようなものだろう。2014年に福岡市中央区今川から博多区中呉服町に移転し、このまちでアンティークショップを営む長崎さんから話を伺った。
小道に一歩踏み込むと、まるでタイムスリップした気分。
長崎さんの日曜は朝9時頃、4歳の娘さんとの散歩から始まる。自宅から中呉服町へ子連れで出勤し、開店前に近所を散策するのが習慣なのだそう。周りには昭和の名残を感じる家屋や古い建物、寺社仏閣が点在。平日はサラリーマンをたくさん目にするが、週末は大博通りを含めて町一帯がのんびりとした雰囲気に包まれる。
「家具屋なので、なるべくゆっくり、穏やかな気持ちで見てもらえるエリアがいいなと思っていたんです。もともと呉服町は“商人のまち”として栄えたエリアで、古い商店や一軒家と、近代的なマンション、オフィルビルが混在し、新旧が融合したイメージ。そして移転の決め手は、アクセス面でしたね。地下鉄呉服町から徒歩2分ですし、最寄りのバス停から博多・天神はもちろん、南区や東区、あらゆる方面へ行けて、路線も本数も充実しています。さらに都市高速のI.C.も近くて、交通の便が本当にいいんです」
『UNLOOP』に訪れる県外客は、福岡市内をあちこち回り、最後の締めくくりにここでショッピングを楽しみ、空港または博多駅へ向かう… というコースが定番化しているそうだ。
店がある中呉服町をはじめ、上呉服町や下呉服町、さらに祇園方面へ足を延ばした御供所町は、タイムスリップしたような古いまちなみが印象的だ。荘厳な寺院、昔のまま整備されていない道、「東町筋」」「桶屋町通り」など城下町時代を彷彿させる愛称も残っている。
「その昔、上呉服町は文化街、中呉服町は問屋街、下呉服町は商店街があって… みたいな歴史の話を、ご近所さんが自然と教えてくれるんです。あと、商売に親しみがある人たちばかりなのでサービス精神が旺盛で、『一緒に何かやろう』とアツい人が大勢いますね」
かつては醤油屋だったという3階建ての物件を一棟借りし、1階を店舗、3階を倉庫兼作業場として使っている。
中呉服町に親しみ、このまちで育つ我が子に伝えたいものとは?
760余年の伝統を誇る「博多祇園山笠」の風習を肌で感じられるのも、ここに暮らす人たちの特権。7月に入ると飾り山笠を生活圏内で眺められ、長法被を着た男性が行き交い、ごりょんさん(女性)が炊き出しを振る舞う光景も見られる。『UNLOOP』の区画は「東流」。ご近所さんに筋金入りの“山男(山笠に参加する男性)”がたくさんいて、店の前を山笠が走るので、毎年家族で見物するのだそう。
「娘も『おいさ、おいさ』と言って、水をかけていますよ。本番の朝だけじゃなく、『流舁き』や『追い山ならし』など、普段から伝統的な祭りの光景を感じられます。なんだか、現代と昔の狭間にいるような不思議な感覚なんですよね」
中呉服町に移転して改めて、博多は伝統文化や歴史を重んじるまちだと再認識したという長崎さん。春は博多どんたく港まつり、夏は山笠、秋は博多旧市街のライトアップウォークや灯明ウォッチング、冬は初詣や節分祭で寺社仏閣が賑わう。古くから伝わる慣習や、地域に根ざした祭りが大事にされているから、四季の移ろいをまちの活気から知ることができるのだ。
「娘にもまちの歴史や伝統文化に慣れ親しんでもらえたらと思っています。近所に90代のおばあちゃんがいる駄菓子屋さんがあるので、そこでおやつを買ったり、おばあちゃんから昔話を聞いたり。娘は今、店の手伝いが楽しいみたいで、なにかと中呉服町に行きたがっています。昔から商売をやっている人たちは、こうやって子どもたちを育てていたんだよなぁと思うと、感慨深くなりますね」
週末の朝は娘さんと一緒に、神社巡りなど近所を散歩するのがお決まり。
このまちに光を灯す存在でありたいという、店主の思い。
「もともと“商人のまち”だからか、オープンマインドな人情派、祭り気質の方が多いですね。うちが移転する前、この場所にしばらくテナントが入っていない状態が続いていたそうで、僕らが入居し、毎日明かりが灯っていることをご近所さんが喜んでくれています。買い付けなどで1〜2週間不在にすると寂しがってくれることも(笑)。地域の活性化をみんなが望んでいるから、周りで声を掛け合って、盛り上げようとするあたたかな心意気を感じます」
「初めて来てくださるお客さんがよく、『こんな場所にいい感じのお店があったなんて!』とお話しされます。この言葉がうれしくて、いろんな方にそういう感覚を楽しんでもらいたいと思っています。『このまちに行けばあの店がある』というランドマーク的な立ち位置じゃなくていいんですよ。誰にでも知られていることが商売の理想かもしれませんが、大通りの裏でひっそり店を続けながら、お客さんに新鮮さや新しい発見を感じてもらえたらなと思います」。
路地裏で地道に長い月日を営んできた老舗のように、自分も地域に根ざしながら切り盛りしていきたいと語る長崎さん。誰かにとっては、新発見となるうれしい場所に。そして中呉服町の人々にとっては、毎日ポワンとあたたかな明かりが灯る安心できる場所に。いつも変わらない店主の笑顔が、中呉服町をこれからも支え続ける。