■flowershop parc(フラワーショップ パルク)
住所:福岡県久留米市宮ノ陣4-3-25
TEL:0942-36-2855
営業時間:10:00~19:00
定休日:日曜
※この他、『立花うどん』(久留米市)、『トモノウコーヒー』(福岡市城南区)でも販売
“福岡のポートランド”、久留米・通町が今改めてオモシロい理由。
天神・博多から電車で30分。特急列車に揺られ、筑後川の橋を渡るとまもなく「久留米駅」へ到着する。駅から歩いて辿り着いた通町はゆったりとした空気が漂い、制服を着た学生や買い物中の女性、早い時間から一杯楽しむサラリーマンなど、老若男女がまんべんなく街を行き交っていた。今回は、そんな通町に店を構える『マツノブデリ』オーナーの松延伸悟さんから、地元目線で久留米の地域性や通町について話を伺う。久留米の決まり文句「焼き鳥の聖地」「ゴム産業のまち」とは視点が異なる、リアルなまちの魅力を深掘りしていこう!
同じ久留米でも、環境やライフスタイルがまったく違うことを実感。
生まれも育ちも久留米市の松延さん。10歳までは「長門石」という佐賀との県境にある田舎町で育ち、10歳以降は西鉄久留米駅付近の都会ゾーンに引っ越したという。同じ市内でも田舎と都会の両エリアの暮らしを経験し、そのギャップに衝撃を受けたそうだ。
「当時の長門石は、田んぼと団地と牛牧場ぐらいしかない自然豊かな場所でした。筑後川と沼川に包囲された辺境の地で(笑)、小学生のたまり場は駄菓子屋くらい。木製のコマを使って遊んでいました。ところが10歳で西鉄久留米駅付近に引っ越すと、遊び場のレベルが激変。駅周りにはおしゃれなお店や飲食店、ライブハウスもあり、中高生はB-BOY系のブランド服を着てスケボーをやっていたりして、典型的な“田舎のヤンキー”がいないことにもビックリしました。僕は根が田舎者なので、家で一人楽器を弾くようなタイプでしたが(笑)、それこそ長門石にいたら音楽に目覚めることもなかったかもしれませんね」
久留米市の中心部には特急列車が停まる西鉄久留米駅とJR久留米駅があり、天神・博多へのアクセスの良さから行動範囲がぐんと広がったと、松延さんは語る。ちなみに『マツノブデリ』がある通町も、西鉄久留米駅から徒歩圏内。まさに久留米の“都会ゾーン”に位置する。
「天神・博多から久留米に入る際に、必ず筑後川を渡りますよね。長門石もそうですが、僕の中の“久留米の風景”には、必ず筑後川があるんです。今でも川を眺めたり、橋を渡ると、時が止まったような懐かしさや安心感が込み上げます。これからも変わらずに郷愁の地でいてほしいスポットです。そういう意味では、『石橋文化センター』も不動のオアシス。ペリカンの彫刻がある噴水広場や中庭の佇まいなど、醸し出す雰囲気と光景は昔と変わりません。いつ行っても植物や花々が咲き誇って、ノスタルジックな佇まいに癒されます」
久留米初のデリ専門店を立ち上げて実感した、特異な地域性。
松延さんの経歴はちょっとユニーク。二十歳まで実家から香椎の大学へ通い、青春時代はバンド活動に明け暮れ、23歳でニューヨークへ単身渡米! 現地の寿司店で2年間働いて、人生初の飲食業経験を積む。帰国後は福岡市に住まいを移し、建築事務所に一時勤めるが、1年後再び飲食業界へカムバック。大名の創作和食料理店に勤め、ホール(配膳・サービス)の楽しさを改めて実感したという。
「30歳を過ぎて、そろそろ独立しようかと漠然と考えた時に、久留米インター近くの東合川で格安のテナント物件を見つけました。スーパーマーケットの隅っこで、狭くて小さな5坪ほどの区画ですけど、一生懸命やれば形になるんじゃないかと思える場所でしたね。また、第2子が生まれるタイミングだったこともあり、子育てをサポートしてもらいやすい実家近くに引っ越す話も同時に浮上。久留米を拠点とする決め手が重なり、独立の第一歩を踏み出しました」
こうして2012年、久留米市東合川に『マツノブデリ』が誕生。当時まだ世間では“デリ”という言葉が認知されていない状況の中、地元客の反応はどうだったのだろう?
「久留米は特に、“新しいもの好き”の人が多いように感じましたね。例えば、西鉄久留米駅のミスタードーナツは、オープン時に売り上げ日本一になったくらい! 新店ができると一斉に駆けつけて、まずは楽しもうという気質です。それが個人店なら『頑張ってね!』と応援してくれるし、『久留米にこんなオシャレな店を作ってくれてありがとう!』と感謝までしてもらえる。うちも『デリってなに?』から始まり、その後も贔屓にしてくださるお客様に支えられました。『久留米っぽくないね』が褒め言葉です(笑)」
そして2019年3月、西鉄久留米駅近くの通町に移転。1階は自家焙煎コーヒーショップ『COFFEE COUNTY』と空間をシェアし、持ち帰り用のデリを販売。2階にはランチプレートやデザートを楽しめるイートインスペースを設け、規模を拡張した。隣には地元の人気ヘアサロン、2軒隣には雰囲気のいいスパイス専門店があり、飲食店が建ち並ぶ通町の中でも、特に垢抜けた空気感を漂う一角になっている。
久留米特有のハングリー精神が、まちと文化を育む。
地元人の気質の話で、松延さんからオモシロい持論が飛び出した。
「ハングリー精神の強さが、地域全体に染み付いている気がします。なぜなら地元人は昔から久留米に対して、“常に何か不足している”と飢餓感を抱き生きてきたから。買い物や娯楽施設も福岡市まで行かなきゃ満たされない環境だったので、その分ハングリー精神が養われたように感じます。だから満足するものを自作したり、あるもので転用させたり、新しいものをいち早く取り入れて、お客さんもそれを歓迎して……と、結果的にプラスに働いていますね」
現在の店舗は、人気コーヒーショップ『COFFEE COUNTY』と空間をシェア。両オーナーの息がぴたりと合致
7年前、「デリ専門店」が久留米になかった時代に松延さんが先駆けて始めたのも、久留米のハングリー精神の賜物。そして同じような気質の店主が通町にも大勢いるから、天神・博多に負けず劣らずおいしい飲食店が数多く建ち並び、センスが光る個人経営のショップや老舗食堂などが幅広い世代に愛され続けている。
「通町には“名店臭”を醸し出す店がたくさんあるので開拓しがいがあります。名店に限ってあまりアピールしていないし、そもそも久留米の人って“アピール下手”なので(笑)、地元人も魅力に気づいてない灯台下暗しのパターンが多々。僕個人としてもそこを掘り起こすことが楽しみになっています。そうそう、ここから徒歩圏内の『ぎょうざの娘娘(にゃんにゃん)』は安くて旨いですよ! あと久留米の小森野付近にある『丸星ラーメン』も昔から通っている有名店。ソウルフードの老舗が流行に左右されず生き残っていることが純粋にうれしいし、時代が2〜3周回って“今久留米の老舗がオモシロい”みたいな流れがあるようですね」
「久留米にしても通町にしても、理にかなっている点がたくさんあるんです。通町は大通り沿いですが、福岡市の半分以下の家賃で広い物件が借りられるほど、好条件のテナント物件が転がっています。店のランニングコストを抑えられるので、商品を良心価格で提供できるし、店主のハングリー精神も相まって商品のレベルがとても高い! 安くていいものが揃うことは、住民としてもうれしいですよね! これって少し前のアメリカで言う、ブルックリンやポートランドに近い存在かも!? 家賃が手頃なローカルな場所にセンスのいい人たちが集まって、お店を作り、まちと文化を育む……。ここにはそういう土壌があると思います」
古い建物を利用しながら、自分たちの世界観や審美眼を追求して店を営む店主たち。地域に根ざす老舗に敬意を払い、マイペースかつ実直にそれぞれが目指す“本当にいいもの”を届け続ける。そんなローカルヒーローが通町にたくさん集まっていること、そして今後さらに“味わい深いまち”に発展するポテンシャルがあることを、松延さんの言葉から実感できた。