極小エリアマガジン
中央区薬院1丁目
#4
Interview
「“まち想い”に溢れた人々が集まる、薬院の心地よさ。」
ヘアサロン『& LOOSEN』 オーナー 山口浩さん

“まち想い”に溢れた人々が集まる、薬院の心地よさ。

薬院に対して、人々はどんな印象を抱いているだろう? 「天神の隣駅」、「夜遅くまで開いている飲食店が充実」、「おしゃれなエリア」、「住みたいまち」、「天神にも博多にも行きやすい」…など、さまざまな答えが飛び交いそうだ。今でこそ、飲食店やショップが増え、洗練された印象だが、20年ほど前は現在と少し雰囲気が違ったとか。今回は、その頃から薬院に暮らし、このまちの本質的魅力を知っている『& LOOSEN』の山口浩さんから、薬院のまちについて話を聞いてみたい。

わずかな店たちが、薬院の温和なコミュニティーを築き上げた。

ヘアスタイリストの山口さんは、薬院1丁目でヘアサロン『& LOOSEN』を営んでいる。もともとこのビルの上層階に一人暮らししていたが、縁がありタイミングが合ったので、独立最初の店舗を同じビル内に構えた。初めは601号室に店舗を開き、その後2015年に1階の路面へ移転。一人暮らし期間とサロン経営年数を合わせると、薬院歴はかれこれ19年目になる。

「独立前は大名の美容室に勤めていたので、自宅は職場に行き来しやすい近場で、安くて広い部屋を探していました。その条件に当てはまった物件がここ。あの頃22歳だったから2000 年に遡ります。正直、当時の薬院は今よりちょっと暗い印象だったかな」と懐かしそうに振り返る。

今の薬院の洗練された佇まいを見ると、暗い印象なんて想像がつかない。けれど、このまちを古くから知っている人からすると、おしゃれな店が増えたのはここ10年くらいのこと。それ以前は店が少なく、住宅街とオフィス街の印象が強かったそうだ。そして薬院一丁目は、今泉公園付近のホテル街がすぐの場所。天神から歩いて薬院に向かう際は、薄暗い道を抜ける必要があった。

「2000年前後は店舗数でいうと、今の三分の一ほどだったんじゃないかな。このビルにあるカフェ『ソネス』(1998年〜)、『憩根』(2000年〜)、隣のスペイン料理店の『イビサルテ』(2003年〜)、その向こうの居酒屋『万作』(1980年前後〜)だけは当時からずっとあって、仕事帰りによく通っていたなぁ。以前『イビサルテ』(通称:イビサ)にU字カウンターのバースペースがあって、そこがみんなの交流の場になっていたんだ。夜な夜な人が集まって、ここで仲間が増えていく。他のソネスや万作でも、誰かしら知人に遭遇して、新しい展開に繋がったりしてね。こういう居心地のいい店は、きっとどのエリアにもあるだろうけど、徒歩1分圏内にコアな店がここまで集結しているのは、薬院の特長のような気がします」

オフィス、商店、住居が混在しているエリアだから、薬院に勤めている人や住んでいる人など、いろんな層が集まり、異文化交流的に仲良くなれる。ミクスチャー現象がコミュニティーを活性し、まちの楽しさを膨らませる。人の行き来が盛んになることで新店も増え、こうして薬院が発展していったように思う。

祭り好きの店主たちが、いつでもウェルカム精神で迎えてくれる。

薬院の中でも特に一丁目は、店主同士の“横の繋がり”が濃い。山口さんが語るように、15年以上続く店が多く、近所同士が関係性を築いているから絆も強くて、イビサルテ、ソネス、万作、& LOOSENをはじめ、同じく古株のセレクトショップ『レッドグッドスピード』や、花屋の『カシュカシュ』、そして& LOOSEN隣のセレクトショップ『knot』もみんな親しい間柄。

「店主の仲間たちで、10年前に『薬院1丁目うどん祭り』というイベントを開催しました。『もっと近隣の住民の方やお客さんたちと関係性を持ちたいよね』という話で立ち上げた企画です。店同士が協力し合い、うどんを生地からこねて、軒先で販売するんです。前日に子どもたちを呼んで、生地を足踏みしながら完成までの工程を体験してもらって。都会で暮らす子どもたちにちょっとした食育と、“地域の祭り”を楽しんでもらいたいという想いもありましたね」

うどん祭りは年に1〜2回のペースで、2016年まで続く恒例イベントとなった。そこで出会った人たちと今もいい仲が続いていると山口さんは語る。また、薬院にはもう一つまちぐるみのイベントがある。2009年に始まり、現在も毎年行われる蚤の市(のみのいち)イベント「薬院てんてん市」だ。

薬院各所でマルシェを開く「薬院てんてん市」の様子

「うどん祭りと同じように、薬院の店主同士が『みんなで面白いことをやろう!』と意気投合して始まった長寿イベントで、毎年5月と10月に開催しています。薬院のまちを会場に、参加者が点々としながら買い物を楽しみ、人が繋がっていくことを目指しています。最初は1カ所のガレージから始まった小さな催しでしたが、だんだん出店者や参加者が増えて、今では60組が集まる名物行事に。前回もハシゴ飲みイベント『薬院サルー祭り』と同時開催して、とても賑やかでしたよ」

祭り好きの店主と個性派の店がこの一帯に集まっているのは、薬院の最大の魅力かもしれない。「よし、祭りをやるぞ!」「やろう!やろう!」と小気味いい掛け合いがなされ、外から訪れる人を常にウェルカムムードで迎えてくれる。店自体はオシャレだけど店主自身は気取っていない、人の温もりを感じられる場所。

店も住民も“長い付き合い”。顔が見えて、安心できる環境。

最近ではテナント用の空き物件が減り、一時期に比べると新店ができるペースが緩やかになったようだ。逆を言えば、テナントの入れ替わりが少なく、息が長いお店が多く存在している。すなわち、住民や客にとって “長い付き合いとなる店”が年々増えているということ。店同士の横のつながりも密になり、強固なコミュニティーが築かれ、安心して暮らせるムードが構築されている。

天神から徒歩5分ほどの都会でありながら、昔ながらの“日常”が残っているのもいい。薬院新川沿いの公園では小学生がサッカーや野球をしながら遊び、いつの時代も変わらない微笑ましい姿がそこにある。

「僕は薬院新川を眺めるのが好きですね。お世辞にもきれいな川とは言えないけれど(笑)、橋の真ん中から平尾方面をよく眺めています。亀が並んでいたり、サワガニが歩いていたり、サギが魚をとったり、都会っぽくない長閑な景色を目にすると心が和むんです。そうそう、ビルの間から聞こえる西鉄電車の音も好きだな。天神〜薬院間はゆっくり電車が走行するので、ガタンゴトン、ガタンゴトンと、ローカル線みたいな音で、なんだか癒されます」

話の締めくくりに、山口さんのお気に入りのストリートはどこか、訪ねてみた。
「僕が勝手に名付けている『ヨーロッパ通り』という一角があるんです。凸版印刷の裏の通りで、ここにイタリア料理の『チェルニア』、スペイン料理の『イビサルテ』、フランス料理の『ル パリゴ』など、ヨーロッパ地方の飲食店が揃っています。オシャレですよね(笑)。昼下がりにこの道を歩くと、『ル パリゴ』のテラスで休憩中のシェフたちに出くわすので、気さくに挨拶したりして、何気ない一瞬に笑顔をもらっています」

ハイセンスな街と言われるまで成熟した薬院。明るくて元気なまち。地域を盛り上げたいと人情味あふれる店主と、マイペースに切り盛りする実直な店主。それぞれが互いを認め合い、住民を大切に思いながら日々を重ねている。なんて素敵な好循環だろう。多くの人を引き寄せる薬院の魅力を、山口さんの話から改めて感じ取ることができた。

Recommend Spot in Yakuin

気分はスペイン! 元気をもらえる薬院のホットスポット

■IBIZARTE(イビサルテ)
住所:福岡市中央区薬院1-16-17
TEL:092-715-0153
営業時間:18:00~23:00
定休日:火曜

地下1階から2階を使った広々空間で、本格パエリアをはじめ、スペイン式の自家製ハムやソーセージ、ピンチョスなどを味わえる。バル的な使い方でひとりでフラッと訪れる客や、食事を楽しみに訪れるグループ客など客層はさまざま。不定期でイベントを開催しているので、スペインらしい陽気な気分を楽しんで。

I’m Here!
& LOOSEN(アンド ルーセン)

住所:福岡市中央区薬院1-16-18 江島ビル103-A
TEL:092-712-8882
営業時間:月〜金曜11:00〜21:00、土曜・日祝日10:00〜19:00
定休日:なし
http://andloosen.com

長年一人で店を営んでいたヘアスタイリストの山口浩さんと浦末和樹さんが、新しい展開として二人で開いたヘアサロン。肩肘張らずにリラックスできる場の空気感と、確かな技術のおかげで、ルックスも内面も両方きれいになれる感覚を味わえる。ヘアスタイルを素敵に変えたい人は、ぜひお願いしてみよう。(予約は電話にて受付)

〜 エリア紹介:薬院 〜

奈良時代、外国から渡来してきた薬草を育てる薬草園と施薬院が設けられたことで「薬院」と呼ばれるようになったという諸説がある。城南線と高宮通りの交差点を起点に、北東が1丁目、北西が2丁目、南東が3丁目、南西が4丁目、南西端には薬院伊福町がある。城南線沿いにオフィスビルが建ち並び、大正通りや高宮通りには数多くの飲食店が軒を連ねる。バスに加え、電車のアクセス面もよく、西鉄天神大牟田線「薬院駅」、福岡市営地下鉄七隈線「薬院駅」「薬院大通駅」が通り、天神、博多、六本松、大橋や二日市方面への移動がスムーズ。ショッピングスポットやカフェも充実していることから、単身女性に人気のエリアでもある。

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