極小エリアマガジン
福岡市東区箱崎1丁目
#49
Interview
「愉快な下町気質と未来のまちづくり。箱崎が持つ無限大の可能性」
『文脈』オーナー 安部佑太さん・瞳さん

愉快な下町気質と未来のまちづくり。箱崎が持つ無限大の可能性

日本三大八幡宮に数えられる福岡市東区の『筥崎宮』。今回はそのお膝元として発展した門前町の「箱崎」にフォーカスし、このまちの気風や住みやすさを探っていく。インタビューで話を伺うのは、箱崎商店街の「きんしゃい通り」に店を構えるスタジオ兼作陶工房『文脈』のオーナー、安部佑太さん・瞳さんご夫妻。昔ながらの老舗が多い箱崎エリアに若いお二人が店を構えた理由や、このまちに惹かれるポイント、この先の箱崎について語っていただき、箱崎の魅力について掘り下げてみたいと思う。

人懐っこくて面白い。多彩な店と人がつくる箱崎のムード。

80軒ほどの店舗が肩を寄せ合う箱崎商店街。筥崎宮に続くメインストリートを中心に、枝葉のように狭い路地が伸び、その先にも商店が連なっている。「きんしゃい通り」もその一つ。野菜や果物のざる盛りが並ぶ老舗青果店をはじめ、どこか懐かしい雰囲気の下町的な景色が広がる。そんな「きんしゃい通り」に、2022年に登場したのが安部佑太さん・瞳さんご夫妻が営む『文脈』。ギャラリー、ショップ、喫茶、作陶工房など様々な顔を持つパブリックスペースだ。

古い商店が建ち並ぶこの一角で、若い夫婦がちょっぴりユニークなお店を営んでいる構図が面白く、なぜこの場所にお店を開いたのかも気になる。話を聞いてみると、「箱崎」というまち自体にご夫妻それぞれが思い入れと関心を抱いていたからだとわかった。

瞳さん:「夫は陶芸、私はものづくりやまちづくりを仕事にしています。以前から二人の力を合わせて何か新しいことをやりたいよね、と話していて、一つ拠点を設けることにしました」

佑太さん:「箱崎に惹かれたのは、僕がもともと高校時代から箱崎の画塾に通っていて、このまちに馴染みがあったから。大学時代も箱崎駅の東口近くのコーヒー豆さん『筥崎珈琲』に通い、コーヒーを淹れる楽しみを覚え、なにかと縁があるまちだなと感じていました」

週末のみ営業する自家焙煎コーヒー豆専門店『筥崎珈琲』

瞳さん:「私は『筥崎荘々』との出会いが大きいですね。友人から『箱崎に面白いゲストハウスがあるよ』と聞いて、何やら宿泊だけでなくお酒を飲みながら面白い人と出会える場になっているらしいと。実際に『筥崎荘々』に遊びに行ったら箱崎界隈にはクリエイティブで活動的な人がたくさんいることを知り、そんな人々が集う地域って楽しそうだなと箱崎自体に興味が湧いたんです」

瞳さんが教えてくれた『筥崎荘々』では、お店の空間を使って人と人が集う場づくりや、ヒト・モノ・コトの化学反応を楽しむイベントが催されている。例えば、平成生まれの交流イベント、毎週日曜朝はヨガ教室、不定期で展示会やライブなども開催。そこには、箱崎界隈に住みながら面白い活動をする人や、肩肘張らずざっくばらんに話せる人たちが集まり、新しい出会いと良い刺激、心地よい癒しなどをもらえるのだそう。

カレーの人気もさることながら、人と人の交流の場にもなる『筥崎荘々』

瞳さん:「私たちはお互いに箱崎に良い印象を持っていましたし、『筥崎荘々』に集まる人たちと一緒に面白いこともやれるかもしれないな、と思ったんです。それで、新しいことをやりたいなら箱崎エリアがベストなのではと夫と意見が合致。ネット検索で物件探しをして偶然見つけたのがこの物件。実際に内見してみて、『ここだ!』と即決しました(笑)。箱崎のまちやこの物件に導かれるように、物事がとんとん進んでいきましたね」

二人が見つけた物件は、箱崎商店街の一角「きんしゃい通り」にある小さなテナント物件で、今ではなかなか珍しいウナギの寝所のような奥行のある間取り。かつてはお茶屋さんがあった場所で、茶器なども扱われていたのだろうかと思いを馳せ、ご主人の器づくりとつながりを感じ、物件に縁を感じたという。内装工事は夫婦二人三脚でDIYし、2022年5月に『文脈』のオープンを果たした。

新旧が混じり合う、風通しのよさも箱崎の大きな魅力!

箱崎商店街は筥崎宮の門前町として栄えたまちで、2代、3代にわたり続く食料品店や、地元の人に愛される飲食店、地域の寄り合い的な場にもなっているスナックやバーなど、長年続くお店が多い。すでにコミュニティが確立している中で外からきた自分達が浮かないか、怪訝に思われないか、不安が少しあったという。ところが二人の心配をよそに、ご近所さんや商店街のメンバーが大歓迎のムードで応援してくれた。

瞳さん:「シャッターが閉まったままよりお店を開いて何かやってくれることが嬉しいと仰ってくださり、また、私たち夫婦のことを温かく見守ってくれて、やさしく声をかけてもらいました」

長い歴史と伝統を持つ箱崎商店街の気風は開放的で、考え方・捉え方も柔軟だったのだ。

昔ながらの商店が多数残る箱崎商店街

佑太さん:「箱崎で、しかも商店街の中で、作陶する工房は初めてだそうです。僕らのことを温かく受け入れてくださる姿を見て、まち全体の風通しの良さを感じましたね」

瞳さん:「『面白いことやっているね〜!』や『がんばってね』などと、みなさんが興味を持って応援してくださるんですよ。閉鎖的ではない前向きな姿勢は、きっと商店街全体が常に新しいことにチャレンジしているからなのかなと思います」

箱崎商店街では筥崎宮の行事に合わせて関連イベントが多数行われ、JR箱崎駅前でも隔月に1回商店街メンバーが出店する「ハコザキマルシェ」を実施している。時代に応じたキャンペーンやまちが一帯になる楽しいイベントがたびたび企画され、新しい風を吹かせる取り組みが行われているのだ。

瞳さん:「筥崎宮界隈は年間を通してイベントが多いので、住んでいて飽きなさそうですね」

佑太さん:「飽きないと言えば、この界隈には路地裏がたくさんあって探検するのも面白いんですよ。今でも『この道とあの道が繋がってるんだ!』『こんな場所にこんな建物が!?』という発見がありますね。先日たまたま道をショートカットしようと思って、車が通れないほどの細い路地に入ったら、ひっそりと佇む神社『宇佐殿(米山弁財天)』を見つけました。発見する楽しさを感じつつ、箱崎はやっぱり神様に見守られているまちなんだなと改めて感じました」

陶芸家の佑太さんは箱崎のロケーションも気に入っているそうで、日常を豊かにする要素がたくさん転がっていると語る。

佑太さん:「ほどよく都会で、ほどよくローカル。この立地がちょうどいいなと感じます。制作中に煮詰まったり疲れたりしたら、筥崎宮の参道の緑に癒されてリフレッシュしています。まちと自然が共存しているので、オンオフの切り替えがうまくできる環境ですね」

そしてアクセスの利便性も箱崎の魅力の一つ。1丁目から7丁目まである箱崎には、地下鉄箱崎宮前駅、地下鉄箱崎九大前駅、JR箱崎駅、JR貝塚駅と西鉄貝塚駅が点在し、どの丁に住んでも駅へのアクセスがいい。さらに国道3号と筥松線(JR沿線の大通り)には西鉄バスも通ることから、行き先や時間帯に応じて公共交通機関を使い分けながら快適に移動できる。

住民目線の暮らしやすさと、発展が期待される箱崎の未来図。

安部さんご夫妻の話を聞いていると、箱崎では店の人とお客さんが近い距離感で、また同じ目線でコミュニケーションが取れて、みんなの暮らしをみんなが支え、楽しんでいるように感じられる。まさに人情を感じる下町的魅力だ。

佑太さん:「その辺りをふらっと歩いていたら、顔見知りのお店の方が気さくに声をかけてくれて、なんだか地元にいる時と似た安堵感を感じるんですよ。隣の八百屋さんからは、登校中の子供たちと交わす『行ってきます』『行ってらっしゃい』の挨拶が聞こえて、親御さんだけじゃなくまちのみんなが家族のように見守っているなぁと思うシーンが多々。こういう声かけは住民の方にとっても安心感があるでしょうし、周りから温和な声が聞こえるとほのぼのとした気持ちになりますよね」

ちなみに、箱崎を拠点に活動する若い人たちや、新しいお店の存在も気になるが、どのような顔ぶれなのだろう?

安部さんご夫妻おすすめの『かわさき惣菜屋』

瞳さん:「前述の『筥崎荘々』を介して出会った人たちにも、お店を新しく立ち上げた方々がいます。朝5時から11時まで営業という個性派の『うどん箱太郎』もそうらしいです。うちの近所に、『筥崎荘々』が運営する『荘々ラボ』があるのですが、ここは“将来飲食店をやってみたい!”など目標を持つ方が何かチャレンジできるよう、応援の場として小さな店舗空間を間貸ししているスポットです。土〜火曜は『かわさき惣菜屋』、水曜は喫茶店『長閑(のどか)』、木曜は『スパイスカレー はらぺこ』と、複数のお店が日替わりでお店を開いていて楽しいですよ」

瞳さん:「佐賀在住の友人に箱崎を案内したことがあるのですが、散策中に顔見知りの方が声をかけてくれたり、バッタリ出くわした商店街組合の斉藤さんとそのまま一杯酌み交わしたりと、いつものように楽しい一日を過ごしました。友人が『地域の人たちの点と点が、線以上に面となっているのがスゴいね』と語っていました。たしかに、点(お店、ヒト)同士が肩を組み、日頃から助け合ったり、互いを面白がったりして、“点と点が面となる商店街”はちょっと珍しいかもしれませんね」

さらに安部さんご夫妻は「箱崎エリアには村社会に似た魅力がある」という。村と言っても縦社会や堅苦しいルールがあるのではなく、仲間意識や調和が根付き、気軽に人との関わりを持てる環境を指す。「しかも、近所付き合いを強要するようなムードじゃないことも魅力。自然と心地よい距離感の付き合いができる“オープンな村”。誰でもウェルカムで、楽しいことを全力で楽しむ気風を持つので、これからもまちがもっと面白くなると思います!」と二人は語る。

現在開発工事が進められる「Fukuoka Smart East」の予定地

ところで、箱崎6丁目ではコロナ禍での延期を経て、「Fukuoka Smart East」と称した九州大学箱崎キャンパス跡地のまちづくりが再開している。「新たな活力・交流を生み出す」「充実した教育・研究を生み出し、人を育てる」「安全・安心・快適で健やかに暮らす」「歴史文化資源を大切にする」「環境と共生し、持続可能なまちをつくる」という5つの方針を掲げ、AIやロボットを駆使した新技術や画期的なアイデアで、九州最大級の先進的なまちづくりが行われる予定だ。

佑太さん・瞳さん:「『Fukuoka Smart East』の具体的な施設や構造は今後明らかになると思うので、現時点ではふんわりとしたことしか言えませんが、住民目線でいうと、商店街界隈で人の温かさを感じ、『Fukuoka Smart East』で生活の利便性や最先端技術の恩恵を受けられたらいいなと思います。一つのまちで人情味と先進性を兼ね備える、唯一無二の“次世代型スマートシティ”が箱崎で実現することを期待しています」

これからまちづくりの開発が進み、箱崎に“最先端のスマートシティ”という新しい側面が生まれ、今まで以上にまちに多面的な魅力が増していくだろう。そうなった場合も、昔ながらのまちの醍醐味を残した状態で、新旧がバランス良く共存する風通しのいいまちでありつづけてもらいたい。面白いことが大好きな店主や住人を中心に営まれる、ホッとする下町的安堵感と最先端技術の快適な暮らし。箱崎が先駆けて実現する、ハイブリッドなまちづくりに注目が集まる。

Recommend Spot in Hakozaki

まちの人と面白いことがつながる、交流の場

■ムメイジュク
住所:福岡市東区箱崎3-8-18
TEL:070-4221-5850(箱崎商店連合会)
営業時間:10:00〜17:00
休み:不定休
https://www.facebook.com/mumeijuku/

箱崎商店街の一角にあり、商店街の人と住人がコミュニケーションを育めるスポット。もともとは『無名塾』という居酒屋だった場所で、地元の仲間たちがDIYで改装しながらまちの寄合所としてオープン。日や時間帯で業態が変化し、平日はコワーキングスペース、火曜の夜は商店街のミーティング会場、週末は『博多曲物玉樹』のショールームに。また映画上映会が行われたり、夏休み期間は九産大や九大の学生たちがカキ氷を販売したりと、いつも何か楽しいことが繰り広げられている。

I’m Here

文脈

住所:福岡市東区箱崎1-32-28
TEL:非公開
営業時間:各月で不定期(詳しくはInstagramを確認)
https://www.instagram.com/bunmyaku/

2022年5月にオープンした、商店街に佇むカルチュラルなスモールスペース。「商店街のちっちゃなあそび場づくり」をコンセプトに、陶芸家・安部佑太さんが手がける筥崎で焼く器を並べ、時にはマルシェを開き、またある時はギャラリーに変化し、その時々で出会い、発見、ひらめきを楽しめる場所。店内奥には作陶工房『きほんの道具 あべ』を構え、週末は陶芸体験も可能(少人数制・要予約)。ふらっと気軽にアイテムを覗き、軒先に腰をかけてゆるりと過ごすのも大歓迎。何気ない会話を楽しむだけでも、暮らしを彩るきっかけになるはず。

〜 エリア紹介:福岡市東区箱崎 〜

福岡市東区の南部に位置し、筥崎宮や箱崎商店街を中心に古いまち並みが残る。2022年11月末時点の人口は19,495人(Wikipediaより)。JR九州箱崎駅、地下鉄箱崎宮前駅・箱崎九大前駅・貝塚駅、西鉄貝塚線貝塚駅と公共交通機関のアクセスが充実し、福岡県立図書館、福岡市東区役所、福岡県東警察署といった公共施設も集合。自治会を筆頭にした「箱崎まちづくり計画」が策定され、快適で美しい住環境を維持・向上することを目的とした活動が多数展開されている。箱崎キャンパス跡地の再開発にも各方面から注目が集まる。

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