極小エリアマガジン
糸島市前原中央3丁目
#47
Interview
「人と自然に癒され、都会にも好アクセスの前原。」
『糸島くらし×ここのき』オーナー・野口智美さん

人と自然に癒され、都会にも好アクセスの前原。

今回フォーカスするのは、糸島市の中心地・前原エリア。JR筑肥線・筑前前原駅を中心にまちが広がり、駅の北側には唐津街道の宿場町として栄えた前原宿(まえばるしゅく)跡があり、長年続く商店街として地域住民に親しまれている。昔ながらの古い建物が多数現存するのも魅力的だが、面白いのはそこを利活用してお店を開く人が増えていること。『糸島くらし×ここのき』のオーナー・野口智美さんもそのひとり。今回は、野口さんから前原エリアの中でも商店街が根付く「前原中央」の魅力についてインタビュー。まちの楽しさや居心地の良さについて伺った。

糸島市の中心地・前原。その交流拠点「前原商店街」の歴史と魅力とは?

博多駅から電車で約40分。福岡市営地下鉄からJR筑肥線へと切り替わり、そのまま直通運行で筑前前原駅へと到着する。駅の周辺は糸島市の中心市街地・前原エリアが広がり、自然に囲まれた長閑な雰囲気でありながら、大通りは賑やかな雰囲気で、自然とまちのちょうど良いバランスが保たれている。

駅から北へ5分ほど歩くと、「唐津街道 前原宿」「前原名店街」「軽トラ市」と記されたゲートサインが見える。

ここは、江戸時代に唐津藩主や福岡藩主などが参勤交代で通行していた唐津街道宿場町として栄えた場所。旧宿場町はのちに前原商店街となり、今も創業100年を超える食堂や呉服店、靴屋、寝具店、陶磁器専門店、乾物店などの老舗が軒を連ねている。

そんな古き良き歴史と文化を持つ商店街に、糸島の暮らしの道具・雑貨・食品などを集めたショップ『糸島くらし×ここのき』がある。店主・野口智美さんがお店を開いたのは2010年のこと。今でこそ、商店街の空き店舗を活用した雑貨店やカフェが増えて賑わいを見せているが、13年前に野口さんがこの地にお店を開いた理由はなんだったのだろう?

『糸島くらし×ここのき』の物件は、昔は八百屋さんだったそう

「一言でいうと“ここが商店街だから”ですね。もともと糸島の木材を使った木工品を販売して、地元の森づくりを応援したいという思いがあり、山の麓も視野にいれて物件探しをしていました。そんな中、偶然見つけた空き物件がこの場所でした。商店街という立地にも惹かれていたのでタイミングと縁で出店を決めました」

「10年以上お店を続けて、改めて感じるのは、旧唐津街道の地の利。もともと宿場町という人と人をつなぐ交流の地でしたし、さらに糸島の海のものや山のものも集まる流通の拠点だった場所なので、今こうしてお客さんやご近所さんとの交流を育めているのも縁深いなぁと感じます。それと同時に、ここにお店を開いて良かったなと思いますね」

この辺りでは、地域を活性化するために「唐津街道前原宿応援隊」が組まれたり、毎月第4日曜に「軽トラ市」が開催されていたりしたそうだ(ともに現在は終了)。現在は商店街のメンバーで「前原そーつく商店街実行委員会」が発足され、「前原をもっと深く、もっと面白く」をスローガンに、スタンプラリーや福引イベントなどが行われている。(※「そーつく」とは、糸島の方言で「歩き回る」という意味)

「うちの近所に豪商のお屋敷を使ったレストラン『古材の森』があるのですが、食事の他にも地域の歴史・文化を伝える場として、講座や展覧会などが開催されています。また、お店の方が歴史好きということで、旧宿場町の歴史散策の案内役にもなられていました。各店が地域に対して思い入れを持っていること自体が、まちの文化継承につながっていると思います」

旧唐津街道に並ぶレストラン『古材の森』

天神・博多・空港への移動が快適で、住宅地としての人気も上昇!

前原エリアはJR筑肥線・筑前前原駅を中心に、「前原中央」「前原駅南」「前原西」に区分されている。駅の北側に位置する国道202号や旧唐津街道、前原小学校付近までの一帯を「前原中央」とし、前述で触れた歴史を感じる商店街と駅前のショッピング通り、交通量の多い国道が通っている。

賑やかな国道202号と、駅前のショッピング通り「イリスロード伊都」

駅の南口を出ると住所は「前原駅南」となり、戸建て住居を中心とする閑静な住宅街が広がる。駅から徒歩5分の場所に笹山という小高い丘があり、そこにある「笹山公園」は桜の名所として親しまれ、丘の頂上から眺める前原の街や加布里湾がすばらしいという。

駅から北西側のエリアが「前原西」で、地域住民の散歩コースである丸太池があり、併設の公園では子供たちが元気に遊ぶ姿も見られる。また糸島市市役所もすぐ近くにあり、2024年1月開庁をめざして新設工事が行われている。福岡県立糸島農業高等学校も前原西3丁目にあり、筑前前原駅から徒歩10分ほどなので福岡市内からの進学者も多いとか。

遊具を備えた丸太池公園。マルシェイベントの会場としても利用されている

新たな糸島市役所は、丸太池公園と一体となった憩いの場が加わる予定

筑前前原駅は2003年に快速列車の停車駅となり、福岡市営地下鉄空港線にも接続しているので、天神・博多・空港方面へ乗り換えなしで行くことができる。また、筑前深江や唐津方面にも行くことができるので、前原を拠点に通勤・通学や休日の日帰り旅も楽しめそうだ。

公共交通機関は電車のほか、昭和バスが運行中。駅にロータリーを構え、糸島市内各地だけでなく高速道路を使った天神・博多への路線もある。高速道路「前原I.C.」は車で10分弱の場所にあるので、車を利用した移動もスムーズ。このようにアクセス面の利便性から年々移住者が増えているようで、ここ数年で人口増加率が上昇し続けている。(※糸島市役所ホームページより)

「周りにマンションが建ったり、古い一軒家の跡地に新築の戸建てが2〜3軒建ったりして、住居建築ラッシュが続いているなと感じます。それだけ、このエリアに住みたい人が増えているのでしょうね。お店の前でも登下校中の子たちをたくさん見かけますし、前原南小学校は低学年の児童が高学年の2〜3倍近くいると聞いて、若い世帯が増えていることを実感します。これからも、昔から住まれている地元の方と若い世代が仲良く溶け込めるまちであれたらいいですね」

旧唐津街道は、園児の散歩コースや小学生の通学路になっている

温厚な地域の気質が、住み心地にもつながっている。

天神・博多と糸島半島をつなぎ、糸島の玄関口という位置づけの前原エリア。「糸島といえば海をイメージする人も多いかもしれませんが、最近は糸島の中でも前原に遊びにきてくださる方が増えていて、1日まち散策を楽しまれているようです」と野口さん。

野口さんはお店のかたわら、ポップアップショップや展示会を企画し、これまで複数回にわたり近所のお店とともに「ヨリミチマルシェ」を開催した。マルシェでは糸島のおいしいものやステキなものを集め、多くの人に地域の魅力を伝える場となり、地元の人にもたくさん喜ばれたようだ。

「ヨリミチマルシェ」の様子

また、地域の伝統行事「前原夏祭り」もコロナ禍の開催見送りを経て、2023年7月についに復活!心躍る出店の数々と、威勢良くかけまわる前原山笠を見に、多くの人手でまちが賑わう。

「もともと宿場町だった歴史と、商店街の気質が息づいているからでしょうか。人がわいわい集まり賑わうことを地元の方が歓迎してくださっていて、前に開催したイベントでも『昔みたいに活気があっていいねぇ』とご近所さんたちに喜んでもらえて私もうれしくなりました」

冒頭でも触れたように、まちなかや商店街では一時期シャッターを閉じた店が目立っていたが、それらの空き店舗を今の感性でおしゃれに利活用する人が増え、若い世代にも注目されるような物販店やカフェが登場している。

コーヒー豆と淹れたてのコーヒーを提供する『SAZANAMi』

前原商店街にも新しい店舗が増え、2021年にユニークな郷土文具を扱う『小富士』、2022年に新スタイルの駄菓子店『トムソー屋』、さらに築約200年の物件を改装したシェアスタイルのコーヒーショップ『SAZANAMi』と革雑貨専門店『SCATOLA』がオープン。食事や買いもの、人と人のさまざまな出会いを楽しめる場所が増えて、かつての商店街の活気が再び戻ってきたようだ。

野口さんは地域の仲間と「前原歩帖」という散策案内MAPを発行し、旧唐津街道の歴史やおすすめのスポットを掲載したチラシを配布している。表面には主要スポットが記された地図を、裏面には前原エリアの見どころや文化を伝える読みものを掲載。まちの魅力をさまざまな角度から発信している。

『糸島くらし×ここのき』をはじめ、前原の主要スポットや各店にて配布中

「各店がそれぞれのリズムで日々を重ねながら、店主同士が緩やかにつながり、支え合う関係性を築けていることが、本当にありがたいです。ちなみに私たちも、日常で必要なものを近所にサッと買いに行ける商店街を重宝しているんですよ。例えば、『暮らし工藝舎』に収納用カゴを探しに行ったり、『SAZANAMi』でコーヒーを味わったり…。逆もあって、周りのお店の方々ががうちに甘酒を買いに来てくださったり、お店に飾るお花を求めに来てくださったり、この小さな地域で経済が回っている。そういう地域性がしみじみ良いなぁと感じます」

住民にとって、日用品や食料品などが充実する商店街の存在は大きい。お馴染みの顔ぶれがいる安堵感もあるだろうし、お店同士の良好な関係性が地域の温和な空気感、ひいては居心地・住み心地にもつながってくるのではないだろうか。そして、身も心もほぐしてくれる長閑なロケーションと、筑前前原駅や高速道路などのアクセス性も住環境の魅力に輪を掛ける。

「新たに移住してこられる方も、“仕事は福岡市内で、子育てや実生活は住み良い前原エリアで”という方が多いかもしれませんね」と野口さんが語るように、現代社会で必要とされているワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を叶えるには打ってつけの環境かもしれない。ゆっくりと腰を据えて、長く住み続けたい場所。そういった観点で人を惹きつける魅力が、ここ前原エリアにはある。

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昔から変わらない味。100年以上まちに愛される食堂!

1921年創業、国道202号沿いに建つ老舗食堂。糸島の食材を使用した定食メニューはバラエティ豊富で、昔懐かしい味わいのポークチャップ定食やチキンライス、定番の生姜焼き定食、カツカレー、うどんやチャンポンなど、充実のラインナップ。野口さんのおすすめは、糸島産の豚肉を使用した「カツ丼」!肉の旨味と脂の甘味が口に広がり、つゆが染みたご飯も箸が進むおいしさ。昔から変わらない佇まいと味わいで、地元の常連客の胃袋を掴んで離さない名店だ。

■角屋食堂
住所:糸島市前原中央3-20-1
TEL:092-322-2214
営業時間:10:00〜16:00
定休日:日曜

I’m Here
糸島くらし×ここのき

住所:糸島市前原中央3-9-1
TEL:092-321-1020
営業時間:10:00〜18:00
定休日:火曜
https://www.coconoki.com

「自然とともにある暮らし」をテーマに、糸島のつくり手によって生まれた暮らしの道具、雑貨、食品、衣類、花などを販売。お店ではモノを売るだけではなく、一つひとつに込められたつくり手の思いや生産背景、そこで織り成されるものづくりの文化や姿勢なども紹介し、身近な自然に目を向けて暮らす楽しさを表現している。店内奥にはギャラリースペースがあり、作家を招いての企画展やポップアップショップなどを不定期で開催。糸島のモノと人、暮らしや文化に触れながら新しい出会いを楽しめる、“糸島のくらしの発信拠点”となっている。

〜 エリア紹介:糸島市前原中央 〜

福岡県西部に位置する糸島市。その中央部に位置する前原エリアは、「前原中央」「前原駅南」「前原西」に区分されている。 JR筑肥線・筑前前原駅から北部に広がる「前原中央」には、江戸時代に唐津街道の宿場町(前原宿)として栄えた通りがあり、現在は前原商店街として地域の交流拠点となっている。国道202号沿いは銀行や郵便局が集合しており大型チェーンの飲食店なども充実。東西方向の交通網が発達し、福岡市内や佐賀方面とつながる国道202号をはじめ、車で約10分の場所に西九州自動車道の出入口「前原I.C.」があり、 JR筑肥線・筑前前原駅に関しては乗り換えなしで空港まで行くことができる。

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