極小エリアマガジン
太宰府市五条1丁目
#41
Interview
「歴史、文化、情緒。日常と非日常が交差する五条の魅力。」
『LA COET(ラ・コエット)』 主宰・梶原 琴絵さん

歴史、文化、情緒。日常と非日常が交差する五条の魅力。

今回フォーカスするのは、新年の初詣や合格祈願の参拝者で賑わう太宰府天満宮から程近い「太宰府市五条」。太宰府市の中心市街地であり、戸建てやマンションが建ち並ぶ住宅地としても知られる五条の魅力を掘り下げるため、別エリアから移転してきた刺繍アクセサリーブランド『LA COET(ラ・コエット)』の主宰者・梶原琴絵さんにインタビュー。新しい視点でまちの面白みをどう感じているか、また五条を拠点にして得られたものなど、さまざまな話を伺った。

わざわざだとしても、このまちに拠点を置きたかった理由。

2017年から2022年8月まで嘉麻市にアトリエ兼ショップを構えていた『LA COET』の梶原琴絵さん。以前のお店は事務所がある飯塚市から車で10〜15分と近く、通勤の面でも快適だったが、2022年10月に大きく場所を変え、太宰府市五条に拠点を移した。わざわざ事務所から離れた太宰府に拠点を移した理由とは…?

「嘉麻市のアトリエ兼ショップは地域柄かなり郊外で、最寄り駅から歩くと約40分かかり、車じゃないと行けない場所でした。お客様から『行きたいけど遠くてなかなか行けない』という声が多く寄せられ、オープンして半年後に西日本豪雨の水害に遭ったことも重なり、早い段階で『別の場所に引っ越した方がいいのかな』とうっすら考えていました」

「もともと太宰府は大好きなまち。深い歴史と伝統文化を身近に感じながらものづくりをできたらいいなと思い、太宰府辺りにいい物件があれば…と考えていたんです。とはいえせっかく嘉麻市にお店を構えたので、できる限り嘉麻市で頑張ろうと思い、5年ほど拠点を置いていましたね。本格的に移転を検討しだしたのは、コロナ禍の2021年頃です」

急ぎ足で移転というより、“いい物件と出合えたらその時に”という心持ちで、不動産サイトのチェックを日課にしながら“その時”を待っていた。周りの人からは移転先に博多や天神をすすめられたけれど、梶原さんの気持ちに揺るぎはなかったという。

「繁華街の天神・博多界隈はアクセスがよくて人通りも多いので立地として申し分ないのですが、私自身のんびりした性格なのでもう少し落ち着いた場所がいい気がして(笑)。トレンドや流行りから距離を置き、自分のペースで腰を据えて制作活動したいという気持ちと、歴史や趣を感じる大好きな太宰府に身を置きたいという思いで、エリア選定にあまり迷いはありませんでした」

太宰府エリアの魅力はさまざまあるが、特に古いものを大事にしながら伝統文化を育む風土と、新しいお店や人々を受け入れながら地域活性の取り組みにチャレンジする市政も大きなポイントだろう。梶原さんも地域の特色を「どっしりと安定しながら、新陳代謝が良いまち」と表現する。

「太宰府エリアの中でも駅から近い五条や宰府、石坂、その向こうの連歌屋や三条あたりも含めて物件探しを行いました。この物件はもともと本屋さんだった場所です。以前リサーチでこの付近を回っていた時に本屋さんとして営業しているのを見かけて、外からみた感じや間取り、ロケーションもいいなぁと胸に残っていたんです。物件探しに苦戦していたある日、本屋さんが退去して空き物件として募集にあがっていたので、縁に導かれるように出店を決意しました」

まちの歴史や文化、人々との接点が多い地域性。

梶原さんのアトリエ兼ショップは五条1丁目に位置し、西鉄太宰府駅につながる梅大路通りに建つ。前述通り、このまちの雰囲気に惹かれて物件を決めたというが、具体的にどんなポイントが決め手になったのか。さらに地域の解像度を高めるべく、話を掘り下げて尋ねてみた。

「ここは西鉄五条駅と西鉄太宰府駅のちょうど真ん中あたり。五条駅前の物件もアクセスが良くて惹かれましたが、道幅が狭く建物も密集していて、車通勤の私には少し難しいかな…と。また太宰府駅前は天満宮への参道が広がり、観光客などが大勢いて賑やかな分、物件の賃料が高くなります。総合的に見て、両駅の真ん中のこの付近が私にとってぴったりでした!」

西鉄五条駅(写真左)と西鉄太宰府駅(写真右)。どちらにも徒歩で行ける距離感

「どちらの駅へも徒歩6〜8分で行けて、高い建物が周りにないので圧迫感がなく、ゆったりした雰囲気ながらも主要道路沿いとあって程よく賑やか。宝満山や四王寺山も顔を覗かせ、清々しさも感じられるのもいいですよね」

『LA COET』の目の前を通る梅大路通りは、太宰府天満宮の参道入口から五条交差点までの区間を指し、太宰府市役所や大宰府政庁跡方面にもつながる地域のメインストリート。雰囲気は落ち着いているけれど静かすぎず、通り沿いには路面店や郵便局などが連なり、人や車が行き交い、風通しが良い雰囲気。梅大路通りから一本入ると民家が密集し、代々この地域に住んでいる高齢の住民も多い一方で、近所に日本経済大学や福岡女子短期大学、公立の中学校、高校もあることから学生の姿も多く見られ、駅近くのマンションにはヤングファミリー層の姿も目立つ。

西鉄五条駅周辺の2丁目にはマンションやスーパー、ドラッグストアなどが集合する

太宰府市内でよく目にするのが、かわいいイラストが描かれたコミュニティバス「まほろば号」。ワンコイン(全区画100円均一)で市内の公共施設や観光名所、旧跡、各駅、主要エリアまで乗車でき、高齢者や体の不自由な人の交通手段としても活用されている。路線は8つに分けられ、道幅が狭い場所は10人乗りの地域サポートカーが運行し、小回りが効くところも利便性が高い。

九州初のコミュニティバスでもある「まほろば号」

「移転に際し、ご近所の方々にご挨拶して回りました。知り合いがほとんどいない状態だったので、うまくやっていけるか不安もありましたが、まちのみなさんが朗らかで優しい方ばかりで本当に救われました。近隣の80代のおばあちゃんたちからはまちの昔話を伺い、1〜3月からは初詣と梅の季節だから観光客が一番多い時期だよというお話も。他にも差し入れしてくださることもあり、新顔の私にも親身に寄り添ってくださっています。この付近は老舗のお店も多いので、ご近所さんからおすすめスポットを教えてもらいながら私も開拓していきたいと思っています」

ご近所との触れあいや、歴史を感じるまちなみに一層愛着が湧いてきたという梶原さん。ショップにはひと針ひと針思いを込めた刺繍アイテムが並び、太宰府の梅の花と天満宮の御神牛をモチーフにした作品も飾っている。

ところで五条エリアに住むと、太宰府天満宮にまつわる伝統行事や地域行事に参加できるのも、暮らしの大きな楽しみ。例えば、1月の「鬼すべ神事」、3月の「曲水の宴」、5月の「護摩(ごま)焚き」、9月の「太宰府天満宮神幸式大祭(通称:どんかんまつり)」、他にも夏祭りや秋祭りなど毎月さまざまな行事があり、毎年9月1日に太宰府天満宮楼門前が灯明で彩られる「八朔の千燈明」も五条の住民にとって大切な伝統行事だ。

また、天満宮内にある『太宰府天満宮幼稚園』に入園すると、和菓子づくりや相撲大会、神事といった天満宮の風習や日本文化に触れる行事にたくさん参加できることから、子育て世帯からの関心も高い。四季折々のさまざまな催しに参加しながら、地域の歴史・文化に触れることができるのは、このエリアの住民の特権と言っても過言ではない。

天満宮の境内にある『太宰府天満宮幼稚園』

まちぐるみのプロジェクトも盛ん。昨年の「FIFAワールドカップカタール2022」の際は、太宰府天満宮周辺をはじめ、太宰府市の各住宅や各事業所をサムライブルーのフラッグで青く染め、一丸となって日本選手へエールを届けようという企画「BLUE FLAG PROJECT」が行われた。これは「アートの力で太宰府からサッカー日本代表を応援!」をテーマに実施された取り組みで、総合企画演出は東京藝術大学長・日比野克彦氏が担当。実際に五条を含め太宰府市全体が青のフラッグで染まり、サポーターの熱い想いとともに住民間の結束力も伝わってきた。

太宰府の至る所で見られた「BLUE FLAG PROJECT」の様子

アートの神様に見守られながら、オンオフを楽しむ日々。

五条に移転して早3ヶ月。「おかげさまで、落ち着いて刺繍アクセサリーの制作に打ち込むことができています」と梶原さん。窓越しに行き交う車やバス、老若男女の人々を眺め、創作性を高めるちょうどいい刺激もあるという。

「『LA COET』がある梅大路通りは、日常と非日常が交差する場所だと思います。五条駅界隈は小さな商店や住宅が連なり、通勤・通学中の人々も多く、そこには住民の等身大の日常が息づいています。そして、太宰府天満宮界隈は観光地とあって多種多様な人々が集まり、五感をくすぐる景色も広がっているので非日常を体感できます。双方のちょうど真ん中に位置するこの通りは、徒歩圏内でどちらの世界にも飛び込むことができるんですよ」

生活を支える下町の風景と、観光資源である天満宮界隈。どちらもこのエリアの魅力だ

「自分の中では『梅大路』の交差点が日常と非日常の境目だと、勝手に思っています(笑)。通勤時にこの交差点を渡ると、不思議と仕事のスイッチが入るんですよね」

「伝統文化や歴史を感じながら制作活動をしたい」と語っていたように、制作の合間に太宰府天満宮に訪れてリフレッシュしている梶原さん。境内の宝物殿や九州国立博物館では展覧会が定期的に行われ、あちらこちらにアート作品が展示されているので、そこからインスピレーションを得ることも多いとか。また、季節の花々や風情あふれる景色を眺めると凝り固まった思考がほぐれ、感受性や創作意欲が湧き、豊かな時間を過ごせるという。

「太宰府で歴史や文化、アートに触れる機会が増えたことで、もっと自由に好きなことを表現していいのでは!と思えるようになりました。自分でも気づかないうちに、なにか頭の中で制限をかけていたかもしれませんね。その縛りを解放しようと決めて以来、視野がさらに広がって少し自分の殻を破れたような気がします」

“学問の神様”としてだけでなく、“文化芸術の神様”としても崇められている菅原道真公を御祭神とする太宰府天満宮。パワースポットとも呼ばれる境内や参道付近の非日常の世界から創造力を養い、また五条の日常に戻り、『よしやるぞ!』と制作に勤しむ。アートとの関係が深い天神さまこと、菅原道真公のお膝元で制作活動を行えるのも、梶原さんにとってモチベーションになっている。

日常と非日常がグラデーションを描くように繋がり、古き良き伝統文化を伝承しながら新しいものも受け入れる度量がある五条のまち。長い歴史のバトンを次の世代へ渡しながら、まちの新陳代謝と住民たちの結束力で地域が成長し続けるすばらしい環境だ。梶原さんも「このまちと共に年月を重ねて、地域の方々から喜ばれるような楽しい場を提供していきたいです」と語る。そんな五条エリアの発展にこれからも注目していきたい。

Recommend Spot in Gojo

長居したくなる心地良い空間。自慢のブレンドコーヒーを堪能して。

■自家焙煎珈琲 蘭館 (らんかん)
住所:太宰府市五条1-15-10
TEL:092-925-7503
定休日:水・木曜

九州初の珈琲鑑定士が立つ喫茶店としても有名で、店主が淹れるコーヒーを目当てに県外客も多数訪れる。「サンドイッチも人気で、中でもおすすめなのが『エッグサンド』。コーヒーは『道真ブレンド』をよく頼みます」と梶原さん。オリジナルブレンドは地域にちなんだネーミングで、梅大路ブレンド、都府楼ブレンド、合格珈琲など、バリエーション豊富にラインナップ。店内のレトロな雰囲気も魅力。

I’m Here
LA COET(ラ・コエット)

住所:太宰府市五条1-16-7 マキハウス1F
TEL:092-929-6678
営業時間:11:00〜17:00
定休日:火〜木曜
https://la-coet.jp

オートクチュールドレスに使用される「リュネビル刺繍」の技法を用いて作品を手掛ける刺繍アクセサリーブランド〈LA COET〉。タイムレス、エイジレス、ボーダーレスをコンセプトに、フランスやチェコ、イタリアなどからヴィンテージビーズをセレクトし、古き良き素材を慈しみながら刺繍仕立てのジュエリー&アクセサリーを展開する。アトリエ兼ショップでは刺繍アイテムに加え、肌触りのいいウェアやファッション小物もセレクト。長く大切に愛用したい、とっておきのアイテムを提案している。

〜 エリア紹介:太宰府市五条 〜

太宰府市の中心市街地にあたる地域で、西鉄太宰府線の五条駅近隣には個人経営の商店やクリニックが多数建ち並び、マンションや一軒家がひしめき合う住宅地が広がる。隣駅は太宰府駅で、五条一丁目の一部は太宰府駅が最寄り駅となる場合もある。太宰府天満宮の参道付近に比べると、五条エリアは地元住民向けの商業施設が多く、スーパーやドラッグストアの他、太宰府市役所、商工会館、太宰府市民図書館、太宰府市立南体育館なども近い。また地区内に福岡女子短期大学と日本経済大学があり、一人暮らしの大学生や通学生の姿も見られる。

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