極小エリアマガジン
久留米市宮ノ陣4丁目
#38
Interview
「自然豊かなベッドタウン、宮ノ陣のスローライフ」
『13 STRAWBERRY AND SHOP(ジュウサン ストロベリー アンド ショップ)』 オーナー・宮﨑暉さん、愛可さん

自然豊かなベッドタウン、宮ノ陣のスローライフ

今回ピックアップするエリアは、福岡県南部に位置する久留米市宮ノ陣。ここは久留米の市街地から車で10分ほどの場所で、一軒家を中心にマンションやアパート、団地が点在し、ファミリー層が多く住むベッドダウンだ。宮ノ陣というと、西鉄久留米駅の隣駅というイメージが強いが、実際の暮らしぶりを覗くために、住宅地にアトリエを構える『13 STRAWBERRY AND SHOP』のオーナー・宮﨑さんご夫妻から、地域の様子や住み心地について話を聞いてみた。

理想の暮らしと働き方を実現するためにUターン。

イチゴをはじめとする農作物を栽培するファーマーの宮﨑暉(ひかる)さん・愛可さんご夫妻。二人は愛可さんの実家の家業である農業を引き継ぐために、ご両親やおばあさまと畑仕事を行いながら、夫婦でアトリエ『13 STRAWBERRY AND SHOP』を運営している。アトリエでは食のよろこびを提案すべく、精魂込めて育てたイチゴを使った手作りのジャムやドリンク、焼き菓子などのスイーツを販売し、お気に入りの食器と日用品もセレクト。さらにその傍ら、暉さんはイラストレーター、愛可さんはフォトグラファーとしても活動し、二人のライフスタイルや溢れ出るセンスが多くの人を魅了している。

二人は一年前に愛可さんの地元・宮ノ陣で暮らし始め、以前はご主人の暉さんの故郷・滋賀県に住んでいたそうだ。拠点を移し、Uターンを決意した理由は何だったのだろう?

愛可さん:「私は二人姉妹の長女で、従姉妹も女性ばかり。ふと『みんな嫁いだら、宮﨑の姓が途絶えちゃう』と思ったんです。跡継ぎ云々ではなく、ただ純粋に家族や親戚が集まる場所がなくなることを寂しく感じました。だから大学進学で関西に引っ越した後も、いつか地元に戻りたいなと漠然と考えていましたね」

愛可さん:「10代の頃は都会への憧れが強かったのですが、大学に入って早々、都会暮らしは私に合わないと実感(笑)。田畑が広がるのんびりした環境で育った私には、建物が密集する都会が息苦しくて…。“いつかは地元に戻るから”という思いをバネに、関西でいろんな経験を積み、おかげさまでたくさんの出会いと喜びを見つけました」

大学時代に二人は出会い、偶然にも暉さんの地元・滋賀県で愛可さんが就職。二人とも滋賀県に住みながら交際を続け、2019年に結婚。

新婚当時はそれぞれ別の仕事に就いていたけれど、“いいもの”を二人で共有するたびに「いつか夫婦で何かやりたいな」と思いを募らせたという。また、夫婦で自営業を営む素敵な人々を見ながら、二人の理想像がより明確になった。とはいえ、夫婦で一緒に自営するのは「30代に入ってから」、「子どもを授かって色々落ち着いてから」、「福岡にUターンしてから」など、まだまだ先のことだと思っていたそう。

ところが2020年のコロナ禍の影響で、頻繁に帰省していた宮ノ陣になかなか帰れない状況に。夫婦で将来について話し合った結果、「目標に向けて行動するなら早い方がいい」と愛可さんの地元・宮ノ陣に拠点を移し、福岡と滋賀の二拠点生活を決意。かねてより温め続けていた「いちご農家」としての暮らしと、アトリエの開業に向けて動き出した。そして、2021年に先行してオンラインショップを開設し、実店舗となるアトリエを今年4月にオープン!ちなみに、もう一つの拠点・滋賀では、関西でのキャリアと人脈を活かし、暉さんはイラストの仕事、愛可さんはカメラマンワークを行っている。

宮ノ陣の暮らしについて尋ねてみると、「田舎すぎず、都会過ぎず、郊外ではあるもののいろんな場所にアクセスしやすい点が良いですね」と二人はにっこり。ドライブに最適な田主丸や浮羽方面にもパッと行けて、佐賀市や大分・日田市までも下道で1時間弱と想像以上に近い。また、西鉄「久留米駅」まで一駅、「福岡(天神)駅」までは急行列車で37分、さらに西鉄甘木線にも連絡している。そして、福岡空港や熊本市内をつなぐ高速バスの停留所「宮の陣」もすぐ近くにあるので遠方への移動も快適だそう。

西鉄「宮の陣駅」から急行列車を利用できるのも◎

初めて知ること、改めて感じること。宮ノ陣の魅力を多々実感!

宮ノ陣へ移住し、暮らしも仕事も新しいステージへと踏み出した宮﨑さんご夫妻。滋賀県で生まれ育ったご主人にとって宮ノ陣のまちはどんな印象だったか、尋ねてみた。

暉さん:「僕の地元も田園風景が広がる郊外なので、宮ノ陣と雰囲気が似ているなと感じました。場所は違うけれど同じリズムでいられて、想像以上に馴染みやすかったですよ。宮ノ陣は遠くまで視界が抜けているので、沈みゆく夕焼け色の空が本当にきれい。時間がある時は外に出て、ひたすら空を眺め続けるくらい自然を感じる風景が好きですね」

移住前は、よく琵琶湖に遊びに行っていたという二人。二拠点生活を送ることで「滋賀県で過ごす時間が減る=琵琶湖に行く機会が減る」こととなり、心にぽっかり穴があいたような気分だったと語る。そんな中、宮ノ陣にも掛け替えのない場所があることに気づいたという。それが一級河川の筑後川だ。

筑後川は阿蘇山を水源とし、熊本・大分・福岡・佐賀の4県を流れて有明海に注ぐ、九州地方最大の川。

宮ノ陣橋から眺める夕暮れの景色

愛可さん:「宮ノ陣に住む人のほとんどが筑後川の橋を渡ったり、川沿いの車道を利用したり、筑後川の風景が日常に溶けこんでいます。大きな川が果てしなく延びて、夕暮れは川がキラキラ輝いて最高の眺めですよ!私も幼い頃からいつも通っていましたが、大人になってその魅力に気づきました。ここから歩いて5〜10分ほどで着くので散歩がてら出かけて、河川敷にシートを敷いてのんびりワインを飲んだり、ピクニック気分を味わったり…」

河川敷でのんびり過ごした時の写真

当たり前の場所であるほど、灯台下暗しと言わんばかりに、後々その存在の大きさに気づくもの。「幼い頃や学生時代はなんとも思っていなかったけど、一度地元を離れると宮ノ陣の見え方が変わりますね」と愛可さん。今回のUターンを機に地元を見つめ直し、新たに知ったことと、再発見したものが他にもたくさんあるという。

例えば、宮ノ陣の地名のルーツ。九州史上最大規模の戦であり日本三大合戦の一つ、1359年の「大原の戦い(筑後川の戦い)」の際に、後醍醐天皇の皇子で征夷大将軍の懐良親王がこの地に本陣(宮ノ陣)を置いたことが由来だとか。またその頃、征夷大将軍が自ら手植えしたとされている「将軍梅」(市指定の天然記念物)が、宮﨑さん夫妻が営む『13 STRAWBERRY AND SHOP』からほど近い『宮ノ陣神社』にある。

『宮ノ陣神社』

愛可さん:「樹齢600年もの将軍梅は今も地域の人々から親しまれて、3月になると梅の花が開き、春の訪れを知らせてくれます。宮ノ陣神社に清掃員のおじいちゃんがいて、この地の歴史について色々と教えてくれるんですよ」

暉さん:「将軍梅以外にも大きなイチョウの木があり、11〜12月の紅葉も見ものです。あと、宮﨑家は毎年『宮ノ陣神社』の隣にある『遍萬寺(へんまんじ)』へ、除夜の鐘をつきに行くのが恒例行事。年越し後にみんなで歩いて鐘をつきに行き、そのまま神社に参拝して、焚き火にあたりながら振舞われるだんご汁をいただくのですが、この一連の流れによって新年の始まりを実感できます。こういった伝統的風習を体感できるのもいいですよね」

『遍萬寺』の鐘

暉さんは、宮ノ陣で暮らし始めてから深呼吸する機会が増えたとも語る。「特に畑仕事をしている時に感じるのですが、自然が豊かで空も高く、息を深〜く吸えることがうれしいです」。農作業をしながら自然と向き合い、時の流れと季節の移ろいを感じ、一日一日を丁寧に暮らす。収穫シーズンなどの繁忙期は、家族みんなで仕事終わりに近所の『松ちゃんラーメン』に行くのも、束の間の楽しみだとか。「餃子とチャーハンが最高!」と愛可さんも微笑む。

宮﨑家が愛してやまない『松ちゃんラーメン』

地域のおばあちゃんは何でも教えてくれる、先生のような存在。

フルーツや野菜など、農作物に恵まれた宮ノ陣ならではの特権もたくさんある。地元で育てられた野菜が直売所などで販売されるので、生産者の顔が見える食材が手に入りやすいこと。また、ご近所同士で農作物の物々交換も行われ、昔ながらのアットホームな文化が残っていること。「今日のお野菜は◯◯さんが育てたものだね」といった会話が生まれ、身近な人が手塩にかけて育てたものだと知ると美味しさも倍増する。

愛可さん:「毎週火曜の朝にJAくるめ北部支店で『宮ノ陣朝市』が開かれていて、JAくるめ女性部の方々が育てた農産物と加工品が販売されています。ブースに立つ生産者は70〜80代のおばあちゃん世代の方が多くて、話しかけたら優しく返してくださるんです。和気あいあいとした空気感に心が和みますし、どこで採れた野菜だとか、調理法のコツは…など、アレコレ教えてくれるんですよ」

「宮ノ陣朝市」は毎週火曜9時〜11時にJA北部支店敷地内(久留米市宮ノ陣町大杜426)で開かれ、また第3日曜9時〜12時にも宮ノ陣クリーンセンター敷地内(久留米市宮ノ陣町八丁島2225)で開催されている。

暉さん:「これは久留米市民限定の催しですが、第3日曜に宮ノ陣クリーンセンターで行われている『リサイクル宝の市』も面白いですよ。お店では出会えないような風合いのいい古家具やかわいい器など、掘り出し物が見つかることも多々。僕たちも自宅にぴったりなテーブルを2000〜3000円で買いました」

このぽっこりとした器も、宝の市で見つけたお気に入り

愛可さん:「宝の市の情報をくれたのも、実はおばあちゃん!引っ越ししたばかりの頃に『こういうのが好きでしょう?』って教えてくれました。ちなみにクリーンセンターには、ごみを焼却した余熱を利用した足湯もあるんです。宝の市と同じ日に朝市も行われているので、第3日曜日は早起きしてクリーンセンターに遊びに行って、足湯に浸かり、近くの広場で持参したパンとコーヒーを食べて、と平和な時間を過ごしています。これも宮ノ陣生活の楽しみですね」

暉さん:「クリーンセンターの横にトウモロコシ畑があるのですが、その農家の方から『6月にトウモロコシを収穫するから取りにおいでよ』とお誘いを受けたこともあるよね。たまたま通りかかった初対面の僕らに気さくに話をかけてくださって、あれはうれしかったなぁ」

「うちのお客様にはご近所さんも多数いらっしゃいますが、宮ノ陣に立ち寄るのは初めてという方もたくさんいます。ここには、筑後川や田園風景など都会では見られない心洗われる景色が広がっています。そういった素晴らしい情景や瞬間、宮ノ陣の魅力を、私たちも伝えていけたらいいなと思います」

『13 STRAWBERRY AND SHOP』の前の通りに出ると、西鉄甘木線の線路が見える。二両編成のこぢんまりとした車両が30分に一本、ゆっくりと通過する。「宮の陣駅がすぐそこなので減速しているのでしょうね、走行音はあまり気になりません。むしろ、ガタンゴトンという緩やかなテンポと風情たっぷりの景色に癒やされています」と二人は微笑む。長閑な景色や電車の音も、宮ノ陣らしさの一つ。そして、筑後川の河川敷、田園風景から望める朝日・夕日の美しさなど、高層ビルが建ち並ぶエリアでは体感できない清々しさがある。そんな心を解放してくれるロケーションと、温かなコミュニティーが築かれた宮ノ陣の暮らしは、何気ない日常に愛おしさを感じる瞬間をきっとたくさん与えてくれるのだ。

Recommend Spot in Miyanojin

宮ノ陣の暮らしを象徴する、筑後川のリバーサイド・シーン

■筑後川の河川敷
住所:久留米市宮ノ陣5丁目 筑後川沿い

サイクリングや散策、釣りやボートなど、思い思いに過ごす人々の姿が見られる筑後川のほとり。南側の河川敷は遊具やスポーツ施設が完備された都市公園「リバーサイドパーク」となっており、北側(宮ノ陣側)の河川敷はピクニックや散歩などゆっくり過ごすのにちょうどいい穴場のエリアだ。宮﨑さんご夫妻も「うちの店からも徒歩圏内なので、テイクアウトのドリンクを片手に筑後川沿いを散歩しながら、河川敷でゆっくり過ごすと気持ちいいですよ」と語る。

I’m Here
13 STRAWBERRY AND SHOP(ジュウサン ストロベリー アンド ショップ)

住所:久留米市宮ノ陣4-12-5
TEL:なし
営業時間:13:00〜17:00
定休日:不定休(Instagramを要確認)
https://www.13kurume.com

いちご農家の宮﨑さんの畑で採れたイチゴや、その日の朝に収穫したばかりの旬の野菜、そして愛可さんのお手製ジャムとスイーツを販売。
(※イチゴが並ぶのは12〜5月まで)
食材・食品だけでなく、「朝食を丁寧にいただく時間が好き」と語る宮﨑さんご夫妻のおすすめの器やカトラリーなどのテーブルウェア、リネン類やかごバッグといった生活雑貨もご紹介。オンラインショップとともに、実店舗となるアトリエも不定期で開放しているのでオープン日をInstagram(@13kurume)でチェックして。ゆくゆくは、アトリエでワークショップやレッスンなどのイベントも予定しているとか。そちらもどうぞお楽しみに。

〜 エリア紹介:久留米市宮ノ陣 〜

久留米市の北部に位置し、筑後川と宝満川に挟まれた地域。西鉄大牟田線「宮の陣駅」が通っており、急行列車も停車するので通勤・通学のアクセスが良好。西鉄久留米駅まで約4分、西鉄天神駅まで最短37分、西鉄大牟田駅まで約35分。また宮の陣駅は西鉄甘木線にも連絡しており、久留米市北野方面へもスムーズに行き来ができる。宮ノ陣3丁目に地域医療の中核的病院『古賀病院21』があり、2016年に古賀国際看護学院が開講したことで看護学生の姿も多く見られる。ドラッグストアやスーパー、コンビニエンスストアなども点在し、ファミリー層に人気のベッドタウン。

こちらの記事もおすすめです