極小エリアマガジン
福岡市博多区博多駅南
#36
Interview
「ヴィンテージな奥深さが満載、博多駅南の本質的な魅力。」
『Vita Design(ヴィータ デザイン)』 テーラー・仲村和紗さん

ヴィンテージな奥深さが満載、博多駅南の本質的な魅力。

今回ピックアップするエリアは、博多区の中心部である博多駅中央街と接する「博多駅南」。博多駅界隈とあってオフィスビルや商業ビルが建ち並ぶ印象が強いが、南北に細長く広がる博多駅南を歩き進めると、次第にローカルなまちなみに切り替わる。場所によってまちの特色が変わる博多駅南の魅力とは一体?4丁目に店舗を構えるオーダーメイドスーツ専門店『Vita Design(ヴィータ デザイン)』のテーラー・仲村和紗さんから、この地域の特性や住み心地について話を聞いてみよう。

まちの表情が丁ごとで変わる、縦長エリアの博多駅南。

オーダーメイドスーツ専門店『Vita Design』のオーナー・辻亮一さんと仲村和紗さんは、前職のアパレル会社の同僚で、先輩・後輩の仲だった。テーラーとしてきめ細やかなサービスとこだわりを追求し、クオリティの高いオーダースーツをより多くの人に提供するために、2018年に2人で独立。肩肘を張らず気軽に、リラックスした雰囲気でオーダーメイドスーツの魅力に触れてもらいたいと、JR博多駅の繁華街から一歩離れた博多駅前4丁目に実店舗『Vita Design』を構えた。

「独立する際に、出店エリアをどうしようかと色々話し合いました。博多は九州の玄関口ですし、私たちのお客様も博多を拠点にされている方が多いので、“博多駅界隈”という立地は第一候補にありました。ただオフィスビル・商業ビルが連立する博多駅前ではなく、お店の存在感が際立つ落ち着いたエリアや、商品の魅力やこだわりを伝えられる少しゆったりした環境を望んでいました。まちの雰囲気と建物のデザイン、物件の広さ、アクセス性…。全体のバランスを見て、JR博多駅から1.5kmという程よい距離感のこの場所を選びました」

似たような条件で“博多駅界隈”であれば住吉や祇園なども考えられるが、仲村さんは「内見で初めて博多駅南を訪れて、博多駅に近い割にまちがのんびりしていて、私の地元と似た感じがしたんですよ」と、地域が放つ空気感に親しみを感じたと語る。

「都会的な部分とローカルなまちなみが入り混じっているところが博多駅南の特徴だと思います。1丁目から6丁目まで、区域ごとにまちの印象が変わるんです。1丁目は、“ザ・オフィス街”。博多駅前と同じようにビジネスマンや学生が行き交い、高層ビルや高級飲食店、『ウィズ・ザ・スタイル福岡』などおしゃれなホテルが集まり、都会暮らしを楽しめるまちですね。2・3丁目は学校・マンション・オフィスビルが集合し、都会と住宅地の中間のような立ち位置でしょうか。4丁目は小さな飲食店が軒を連ねる下町的なエリア。特にうちの通り沿いの『駅南やよい通り』は人気店が目白押しですよ。5・6丁目に入るとまちの景色がガラッと変わり、マンションや一軒家が中心の住宅地に切り替わります。このように、1丁目から6丁目に向かって都会〜住宅地へとグラデーションのようにまちの特色が変わるんです」

1丁目の筑紫通り。JR博多駅やヨドバシ博多が目の前!

3丁目に入ると低層のマンションや商店が並び、まちの雰囲気が変わる

ちなみに、4丁目界隈のコインパーキングは昼間になると満車が相次ぎ、駐車場が争奪戦状態に…!決してコインパーキングが少ないわけではなく、むしろ多い方だが、4丁目はグルメサイトでも高評価の飲食店が多く並ぶため、ランチタイムの駐車場利用率が格段に上がるようだ。仲村さんも月極めの駐車場を探した際に、博多駅南の特性が浮き彫りになったという。

「この界隈は月極駐車場もほぼ満車でビックリしました!不動産会社に事情を尋ねたところ、博多駅南は居住地として需要が上がっているそうで、単身からファミリーまで世帯層が幅広く、専門学生やビジネスマン、外国人住民からの人気も高いのだとか。だから戸数を確保するために駐車場をマンションに建て替えるケースが増え、人口に対して駐車場が不足しているらしいです。分譲マンションも完成後すぐに完売するみたいですよ!」

4丁目は小さな飲食店やマンションが集合。行列ができる人気店も多数!

駐車場争奪戦の背景は、人気飲食店が集まる立地と、居住地としての人気の高さが起因しているようだ。たしかに、JR博多駅に最寄りの1丁目であれば駅まで徒歩約5分と好アクセス。4〜6丁目でもバスを利用すれば約10分で到着し、自転車や徒歩でも行ける距離。福岡空港も車で10分程度なので、出張が多いビジネスマンにも嬉しい立地だ。通勤・通学が快適で、周りに人気飲食店が充実し、近所にスーパーやコンビニも揃うとなれば、自ずと人気が上がるのも納得できる。

歴史と郷愁を感じるヴィンテージな雰囲気のエリア。

仲村さんがテーラーを務める『Vita Design』では、クラシックスタイルをベースに、現代的な要素を加えたオーダースーツを提案している。空間デザインもヴィンテージ調で、まるで海外のアトリエのような佇まい。開業前からこういう古き良きかっこいいスタイルを店舗で表現したいと考えていたそうで、その理想のイメージが築55年のヴィンテージビルの雰囲気とマッチし、物件との出会いもエリア選びの決め手だったと語る。

店を開いて今年で5年目。まちや物件の雰囲気、立地面で出店を決めたけれど、『このまちでよかった』と仲村さんは確信しているそう。
「私はウォーキングが趣味なので日頃からこの辺りをよく回ってるんですが、歩きながら思うのはまち自体に歴史を感じること。例えば、博多駅南4丁目の『比恵(ひえ)遺跡群』もその一つ。春住小学校の裏にあり、今は更地になって囲いが施されているので入れませんが、表に歴史を紹介する掲示板が掲げられています。前々から4〜6丁目付近は古い建物や老舗が多いことから“ヴィンテージの雰囲気が漂うまち”と思っていましたが、遺跡群を見つけるとさらに説得力が増しますよね」

大宰府政庁の前身「那津官家(なのつのみやけ)」があった国指定史跡『比恵遺跡群』

「うちのお店の界隈の3〜5丁目には築40~50年を超えたレトロビルも多く、建物ごとに個性があるので見ていて楽しいですよ。小さな飲食店や商店も多数建ち並び、通りごとに新しい発見がたくさん転がっているので、毎日歩いても全然飽きません。地図上では繁華街の博多駅界隈に位置していますが、昔ながらの建物や店が時代に左右されることなく残っていて、オリジナリティ溢れる魅力が根付いているなぁと思います。クラシックスタイルをコンセプトに掲げる『Vita Design』も長く愛されるお店になりたいですし、これからも時間をかけてヴィンテージの魅力を体現していきたいですね」

「ちなみに、子供たちが公園でのびのびと遊ぶ光景もよく見かけます。以前は『博多駅界隈って生活感がないし、どんな人が住んでるんだろう』と思っていましたが、行き交う人やまちの様子からもファミリー層が多く住んでいるのだなと実感しました」

博多駅南の中でも4~6丁目は、用途地域が「準工業地域」と定められているように、住宅、商業施設、中小の工場が混在するエリアだ。都会と隣り合う環境下でありながら公園では子供たちが駆け回り、ファミリー層も多く住むことから住宅地としての程よい生活感を感じられる。また、低層のオフィスビルや町工場も多く、全国的に有名なチョコレート専門店『チョコレートショップ』の工場も6丁目にあり、小さな店舗を併設。人気のチョコ菓子の“できたて”を購入できるのはここだけで、住民にとってささやかな喜びとなっている。

「博多駅南にはイオン九州や自販機でおなじみのサンコーの本社、東映やオタフクソースなどの大手企業の支社が集まっています。博多駅前に比べると低い建物がほとんどなので住宅地に溶け込むように佇み、企業と住民が寄り添いながら暮らしている感じですね」

腰を据えて長く住める、博多駅南の魅力とは?

前述のように、博多駅南の南側には小さな飲食店があちこちに点在しているが、どのお店も地域の人に愛されていて、しかも息の長い老舗がたくさん残っている。

「同じ博多駅南で、30年ほどオーダースーツ専門店を営んでいる同業種の先輩がいるんですが、『このまちから出るのは考えられない』と仰っていて、地域への愛着を感じました。博多駅南でなければならない理由を尋ねると、『ここはずっと変わらないまちだから』とのこと。この言葉もとても印象的でしたね」

店主と近隣住民が顔見知りの仲になり、必要な時に駆けつけたり、用事がなくても声をかけたり、互いに気にかける間柄が何年、何十年と続いているというのだ。もしかすると、博多駅南は他の都会に比べてビルや施設の建て替えが頻繁に行われないからこそ、ご近所づきあいを育みやすいのかもしれない。行きつけの店が長続きし、住人も長く住み続けるから、人と人の絆や愛着が深まりやすく、結果として住み心地の良さに発展していくのだろう。

「都会になればなるほど、ご近所づきあいが薄くなり、挨拶なども交わさないことが多いですよね。でもうちの近所は住民の方とのコミュニケーションが育まれていて、飲食店でばったり会った時も挨拶したり、道端でも声を掛け合ったり、そういったふれあいの文化が残っているように感じます」

仲村さんがランチによく利用するという『鮨・居酒屋 猪の』は、カウンター越しに大将が握る寿司をいただけて、茶碗蒸しも付いたランチセットが1,000円とハイコスパ。お気に入りの居酒屋『季節料理 花唄』は、日本酒や地酒、新鮮な魚介料理が豊富に揃い、先輩に連れて行ってもらって以来すっかり虜になったとか。店主の人柄が空間や料理に表れていて、アットホームな接客も心が和み、リピートしたくなるのだと仲村さんは語る。どのお店も遠方の常連客だけでなく、近隣住民が日頃から足繁く通うような気さくな店なので、偶然居合わせた住民同士がそこで仲良くなるケースも少なくはない。

「昔から変わらない姿で残り続ける老舗や、時代に合わせてリニューアルするお店、もちろん新たに登場するお店もちょこちょこありますが、まち全体の景色は基本的に変わらず、安定した雰囲気なんですよ。長く住み続けられる味わい深い魅力があると、私も身を以て実感しています」

何気ない挨拶や会話など、ご近所の付き合いが楽しいと仲村さんは語る。幅広い世代やさまざまなジャンルの住民が集まり、店や道端、公園でフランクにふれあえる近い距離感だからこそ、仲間意識が芽生えやすいのだろう。気を配り合うご近所づきあいは防犯や事故防止の面でも役立つことも。これから先も長くこのまちに寄り添い続けたいという仲村さんの言葉が、博多駅南の魅力を象徴しているように感じた。

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春は桜が咲き誇り、住民の憩いの場になる“花のなる公園”

■花野公園
住所:福岡市博多区博多駅南3-11

夕方になると子供が大勢集まり、遊具で遊んだり、広場でゲームをしたり、いきいきと元気に駆け回る姿が見られる公園。「昼間の子供たちの賑わいは、本当にここは博多区!?と目を疑うほど開放感溢れる雰囲気。落ち着いた時間にブランコに乗って黄昏(たそがれ)る大人の姿や、春になると花見を楽しむ人もいて、思い思いに過ごせるスポットでいいなぁと思います」と仲村さん。公園横には神社や公民館が隣接し、地域コミュニティ活動やサークル活動も盛んに行われている。

I’m Here
Vita Design(ヴィータ デザイン)

住所:福岡市博多区博多駅南4-19-5 1階
TEL:092-409-3566
営業時間:11:00~19:00(アポイント制での営業)
定休日:不定休
https://vita-design.jp/

2018年に開店したオーダーメイドスーツの専門店。独自のスタイルと遊び心を探求し続ける大人に向けて、クラシックをベースに現代的な解釈を加え、オーセンティックなスーツスタイルをご提案。国内の名門ファクトリーで仕立て、着心地に関わるディテール部分は職人の手縫いで作られ、品質にこだわりながら一人ひとりにぴったりの一着を提供する。紳士服とともにレディーススーツも展開し、オーダーメイドでありながら手頃な価格が魅力的。仕立てたスーツは何度でも無料でサイズ直しを頼める点も嬉しいポイントだ。革靴のリペアや靴磨きもオーダー可能。

〜 エリア紹介:福岡市博多区博多駅南 〜

福岡市博多区の中部に位置し、北は博多駅中央街、東は博多駅東・比恵・山王、西はJR鹿児島本線の高架を挟んで博多駅前4丁目・美野島、南は竹下・東光寺町と接する。1丁目から6丁目まであり、JR博多駅の南側から竹下まで南北に細長く広がる地域。駅ビルの南側に面していることから、1・2丁目界隈はオフィス街や商業地域として発展している。3・4丁目は低層のオフィスビルや路面の飲食店が建ち並び、5・6丁目は町工場や中小企業のオフィス、一軒家やマンションが集合する。竹下通り、筑紫通り、きよみ通りなど交通量の多い大通りが複数通り、JR博多駅までのアクセスもスムーズ。銀行やスーパー、ドラッグストアなど、生活に必要な施設も充実している。

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