■ベトナム料理シンチャオ 六本松店
住所:福岡市中央区六本松2-3-17 1F
TEL:050-5486-7987
営業時間:11:00~14:00、18:00~23:00
定休日:木曜
https://xinchao.gorp.jp
近代都市と下町の景色が融合する、六本松の面白さ。
今回は、福岡市の西南部と都心を結ぶ拠点である「六本松」をクローズアップ。十数年前までは九州大学六本松キャンパスを中心とした学生街だった六本松も、今では高層マンションが建ち並ぶ賑やかな副都心に発展を遂げている。そんな近代化した六本松にも昔ながらの住宅地が残っているようで、その落ち着いた暮らしを探るために、ペーパーショップ『REGARO PAPIRO(レガーロパピロ)』のオーナー・江藤明日香さんから話を伺った。
活況の六本松の裏手にひっそり残る、レトロなまちなみと深い歴史。
10年ほど前から六本松駅前を中心に大規模な再開発が行われ、いまや六本松と言えば“おしゃれなまち”“品のあるまち”というイメージが浸透しているが、国道202号線より北側の六本松1・2丁目は、昭和から時が止まったような古いまちなみがひっそりと残っている。
そんな六本松一丁目で、2012年に包装紙とオリジナルデザインのペーパーショップをオープンした江藤明日香さん。なんと、店を構える2階建ての木造建ての古民家は、もともとお祖母様の自宅(お父様の実家)だったという。
「1階住居横にあった車庫を使って母が20年前に小さなお店を始め、私は10年前に2階でペーパーショップを開きました。その4〜5年後に父が1階の住居だったスペースでコーヒーショップをオープンし、現在は母の店は閉じていますが、家族みんながそれぞれの得意分野を生かして、おばあちゃんの家という思い出の場所で商売をやっているんです」
建物1階の『DAY’S CUP cafe』は、江藤さんのお父様が切り盛りする
お父様の地元だったことから、幼少期からたびたび訪れ、六本松に親しみがあった江藤さん。子どもの頃の思い出話を聞いてみたら、店の所在地である六本松一丁目の歴史と独特の地域性が見えてきた。
「昭和20年の福岡大空襲で、すぐ近くの『福岡縣護國神社』(以下、護国神社)の本殿や建造物が焼失したそうです。戦後も仮社殿で祭事が続けられたそうですが、地域の方々の尽力で今の立派な神殿に再建されたと聞いています。また祖母の話によると、この辺りは戦後、引揚者の住宅地として国と護国神社が土地を提供した地域で、当時は掘建て小屋や長屋が並んでいたそう。1丁目はほぼ護国神社が所有する土地で占められおり、祖父母も護国神社の借地に家を建てて住んでいました」
お父様の実家だったという『REGARO PAPIRO』の建物は、住所が「六本松1丁目3-13」だが、実は奥に隣接する建物も同じ住所。それは、もともとここが長屋だったから。長屋はその後別々の建物に建て替えられたものの、住所は長屋時代のままになっているのだ。どうやらこれは六本松1丁目では珍しくないことのようで、区画整備で新しい住所が割り振られた建物もあれば、昔の名残で住所が重複する建物もあるらしい。
また、今でこそ地下鉄六本松駅付近は商業施設や新しいマンションが並ぶきらびやかな印象だが、かつては「学生の街」だったことから九大学生用の古いアパートと良心価格の居酒屋・定食屋が密集していた。
「国道202号線から南側の4丁目は、九大移設後の再開発で“今ドキのまち”にガラッと生まれ変わりましたよね。かたや、国道202号線から北側の六本松1・2丁目は昭和レトロの懐かしいムードが残っています。2丁目にある『京極街』と呼ばれるスナックや飲食店が雑多に密集し、昔の名残を感じられるディープなスポット。アジア系の料理店もたくさんあり、幼い頃におじいちゃんたちと中華料理を食べによく行っていました」
京極街からほど近い大通り沿いに真新しいビルがそびえ立つ(写真右)
著名人が多数訪れる中華料理の有名店『你好!朋友(ニイハオ!ポンユウ)』も京極街の一角にあり、他にもベトナム料理店や居酒屋など、細い路地裏に小さな店がギュッとひしめき、独特の雰囲気を醸し出している。
子どもの頃は六本松に訪れるたびに大濠公園や護国神社へ遊びに行っていたと語る江藤さん。大人になり、一児の母となった今も、休日の行き先は「あの頃と一緒」という。子どもを連れて大濠公園を散歩したり、護国神社で毎年夏に開催される「みたままつり」に訪れたり、福岡市立美術館の展示を観に行くことも。慣れ親しんだ憩いの場は今も色褪せることはない。
福岡を代表する神社の一つ『福岡縣護国神社』。遠方からもたくさんの人が祈願に訪れる
ここ10年の六本松の変化。地区ごとの特色が興味深い。
六本松が高感度な副都心として急成長するきっかけとなったのは、地下鉄六本松駅前のランドマーク『六本松421』の誕生だろう。2009年に九州大学が福岡市西区の伊都キャンパスへ移設。以降、六本松の九大跡地を中心とする再開発がスタートし、2017年に複合商業施設『六本松421』がグランドオープン。施設の中核となる『六本松 蔦屋書店』『福岡市科学館』の登場で多くの話題を集めた。2018年には全国初となる「高地家簡」の4裁判所が同居する新庁舎が建ち、地下鉄六本松駅前の歩道もきれいに整備された。こうした『六本松421』を中心とする六本松4丁目の再開発をきっかけに、その界隈に新しい飲食店や物販店が少しずつ増え始めた。
地下鉄六本松駅出入口の目の前に建つ複合商業施設『六本松421』
「六本松の再開発が進む中で4丁目に『マツパン』さんや『コーヒーマン』さんなど素敵なお店ができて、極めつけに蔦屋書店の出店が発表された際は『六本松のまちがいよいよ変わるゾ!』と周囲の期待値が一気に沸きましたね。その後も4丁目には魅力的なお店がちょこちょこ増えて、新しいマンションも建ち、いつしか“六本松はおしゃれなまち”と言われるように。その一方で、国道202号線より北側の1・2丁目は再開発後も相変わらずゆったりしたムードで、まちの変化の速度は遅かったと思います(笑)。そんな1丁目界隈ですが、ここ3〜4年でセンスのいい店主が小さなお店を開く動きが出てきて、カフェ好きや散策好きの方から注目され始めています」
六本松4丁目の通称「ロクヨンストリート」。個人経営の人気店が集結
前述の通り、1丁目は護国神社の借地である兼ね合いから、建物を建て替えることが難しいという。新しくお店を始める際は、現存する建物を活かしながら改装するケースがほとんど。だからこそ、このノスタルジックな昭和の風景がしっかり残り、「ここだけの景色」としてまちの魅力につながっているのだ。路地裏に隠れるように佇むカフェや、入り組んだ場所に建つショップなど、歩きながらいろんな発見を楽しむことができるのは、六本松一丁目ならではのロケーション。
「1丁目に出店を決める方や周りのオーナーの方々は、みなさん個性があって面白い人ばかり。それでいて、このまち特有の“古き良き魅力”を理解し、地域に敬意を払っているので、住民の方々と寄り添いながらマイペースに商売をしています。全体的に物静かで穏やかな雰囲気が心地いいなと感じます。そうそう、若い子たちには1丁目の昔ながらの風景が新鮮に映るようで、散策しながら路地裏を撮影する子をよく目にします」
都会の片隅に残る、細い路地裏は今となっては貴重な景色
『六本松421』の屋上からまちを見下ろすと、1丁目だけ民家が多いことがわかる(写真左・赤丸部分)
古本屋の『吾輩堂(わがはいどう)』や喫茶室の『月白(つきしろ)』、たいやきカフェの『MEDETAIYA ropponmatsu(メデタイヤ六本松)』、インポートの毛糸店『amuhibi(編む日々)』など、狭い路地に息をひそめるように並ぶ個性派のお店たち。ほかにもたくさんの個人経営のお店がレトロな住宅地に馴染むかたちであちらこちらに点在し、歩きながら様々な発見を楽しめる。
「六本松から福岡市美術館までをアートゾーンとして盛り上げようという話も某所で出ているそうです。近代的なまちなみとは対照的な1丁目の“個性”が認知され始めてきている気がしますね。これからのまちの動きも楽しみです」
「ホッとできる下町」と「利便性が高い都会的機能」のいいとこ取り!
実は江藤さん、現在は住まいも六本松に構えているという。そこで住民目線の六本松の魅力について聞いてみた。
「ドラマで見たような“ザ・下町”のおじいちゃん・おばあちゃんがいらっしゃるんです。例えば、タンクトップ姿のおじいちゃんが軒先で植木を育てていたり、おばあちゃんが『作りすぎたから』とおかずをお裾分けしてくれたり、このご時世、都会では珍しい人情味あふれる場面を体感できるんです。そういった地元のご年配の方々や、新たに移り住んできた人たちが、うま〜く共存している感じがいいなぁと思います」
1丁目にはおじいちゃん・おばあちゃん世代の住民がたくさん住んでいるからこそ、日中も近所を散歩する人が多く、ご近所同士で声をかけ合ったり、道端で遊ぶ子どもを見守ったり、さらに夜は静かで平穏な治安が保たれている。
「1丁目は個人経営の商店が多いこともあり、昨年子ども会のハロウィンイベントで近隣のお店さんたちに協力してもらったんです。お店を転々と回りながら子どもたちが各店舗からちょっとした仕掛けを設けたおやつをもらうという、地域ぐるみの絆を感じる楽しい試みでした。あと、毎年秋に『まつり草香江』という地域のお祭りも行われていて、六本松のお店による出店や子ども向けの演目が充実して面白いですよ。ちなみに、六本松・草ヶ江地区には子どもたちを守る『グラスサイダー』というヒーローがいて、運動会や地域行事にもたびたび登場するんです(笑)。六本松住民にはおなじみのヒーロー戦士のキャラクターで、子どもたちから人気です」
温かなコミュニティやホッとする空気感が根付いていて、六本松は住みやすいと太鼓判を押す江藤さん。緑豊かな大濠公園や護国神社にも歩いて行ける距離だから、思い立ったらすぐにリフレッシュできる恵まれた環境だ。「年に1〜2回護国神社で行われる蚤の市は、話題のビンテージショップや人気店など約120店が一斉に集まります。近隣住民的には遠くに行かなくても近場でお買い物を楽しめるので本当にありがたいです」と嬉しそうな表情。
また、六本松は天神と西新の中間に位置し、どちらにも自転車で10分ほどで行けるのも住みやすさの大きなポイント。2022年冬頃開業予定の地下鉄七隈線延伸事業では、六本松駅と博多駅が直通し、博多方面へのアクセス性も格段にアップする。通勤・通学、そして繁華街へのお出かけにも、短時間の移動で済むので今後ますます人気の住宅地となりそうだ。「再開発によって利便性が上がる喜びもありますが、これからもこの下町の雰囲気は残り続けてほしいですし、歩きながら色んな発見を楽しめるまちの要素も活かされるといいですね」と、六本松の未来に想いを馳せる江藤さん。
人の温かみを感じ、心地よい距離感で助け合いながら暮らす下町的住宅地。そして、再開発で近代的なまちへと発展する国道202号線沿いの六本松駅界隈。両エリアのあちこちに気さくで優しく、個性的な店が点在し、地域のつながりや温和な空気感が育まれている。そういったお店や住民など様々な新旧が融合し、これからもまち全体が盛り上がっていくのだろう。そんな六本松に住んだら充実した楽しい日々を過ごせそうだし、今後も福岡屈指の「住みたいまち」として人気を集め続けるに違いない。