〇〇〇ができるまで
賃貸マンション編
#2

安心を築く『設計』

賃貸マンションのアレコレをわかりやすく紹介します。
第二回目は、理想と安全を具象化する「設計」のお話です。

こんにちは、Good life magazineです。

建設業界に関わるモノゴトについて「〇〇〇ができるまで」と題し、さまざまなことのはじまりから完成までをご紹介します。

今回のシリーズは、多くの方が住んでいる「賃貸マンション」がテーマ!賃貸マンション建築&経営の大きな流れ、重要なプロセス、欠かせないチェックポイント、業界の豆知識を交えて紹介していきたいと思います。

【登場人物】

■相談者:建主・Aさん
所有する土地を活用し、目指すは不動産経営!これから賃貸マンションのオーナーになるために、情報収集に勤しんでいるところ。
オーナー経験は初めてなので、マスターから色々と学ぶ予定。

イラスト:建主・Aさん

■解説者:賃貸マンションマスター
賃貸マンションについて、ありとあらゆることを熟知するマスター。建築業界人も一目置く存在だとか!?ここでは専門家として、建主・Aさんに賃貸マンション建築の流れや、為になる豆知識を伝授。

イラスト:賃貸マンションマスター

土地調査

賃貸マンションマスター
改めて土地調査を行います。予定している建物プランに問題がないか、隅々までチェックすることから始まります。

建主・Aさん
契約前に行った土地調査とは異なるんですか?

賃貸マンションマスター
この調査は、「土地に建物プラン通りに建物を建てるため」のものとなります。設計作業の中で「建築確認申請」というものがあるのですが、完成した設計図に対して法律(建築基準法)や条例に適合しているか審査が有るので、設計に取り掛かる前に予め建物に関する規制や条件を綿密に把握しておく必要があります。条例に関しては県や市によって異なるので、建物が建つ場所の条例もくまなくリサーチ。現状の建物プランを確認しながら、問題がないかを改めて精査します。

建主・Aさん
たまに建物が傾いたというニュースがあるので、土地の地盤や建物の構造が気になります…!!

賃貸マンションマスター
気になるポイントですよね。実はこのタイミングで地盤が硬いのか、柔らかいのか。柔らかい場合、どれくらい深いところが硬いのかなどの地盤調査を行います。賃貸マンションの地中には「杭」があることが多いのですが、この杭が硬い地盤に届いていない場合、建物の重さに耐えきれず傾いてしまいます。そんなことがないように、地盤調査と基礎工事が非常に重要です。

基本図作成

賃貸マンションマスター
土地調査が済んだら建物プランの「設計」に入ります。配置図・平面図・立面図・断面図をまとめたものを「基本図」と言います。そして建主と打ち合わせを行いながら、「この敷地にはこういった高さの建物を建て、このような間取り、外観を計画しています」などの説明を受け、建物の詳細な方向性を決めていきます。

建主・Aさん
提案された基本図に対して、こちらから変更や追加の要望を伝えてもいいのでしょうか?

賃貸マンションマスター
もちろん。むしろこの時点でしっかり要望を伝えておかないと、設計が進むにつれ後戻りできなくなることもあります。外壁の色や間取り、仕様など、建物に関する要望、気になることなどを伝えておきましょう。

ちなみに、基本図の作成中に間取りの変更が生じたら、平面図とともに他の立面図や断面図も連動して修正していくことになります。その分の時間と労力がかかるので、早めの段階でリクエストを伝えておくことが大事です。

建主・Aさん
作業が進むごとに、変更の影響が大きくなるのですか?

賃貸マンションマスター
建主の要望を汲み取ることも建設会社の大切な役割ですから、後悔しないようにその都度相談してみてください。設計の担当者は関係各社とも打ち合わせをし、構造(柱梁など)や、電気・設備(電気配線、排水管、換気など)の配置に問題がないかを取りまとめます。建主のリクエストが現実的に反映できるかどうか確認し、慎重にブラッシュアップしていくのです。

協議を重ねて大方の基本図がまとまってきたら、「仕上げ材」を決めていきます。

建主・Aさん
「仕上げ材」って何ですか?

賃貸マンションマスター
外観に関係する外壁材(タイル・サイディング)や屋根材などの“外装材”や、フローリングやクロス、サッシ、クローゼットの付属品の部分などの“内装材”、といった直接目に触れる部分の表面材料を指します。また同時に、キッチンをどのメーカーにするか、オートロック機能を採用するかどうかなどの確認も細かく行います。材料を決め基本図をまとめることで、おおよその建築費が出せます。ただし当初の予算より高くなったら、コストを下げられるところを検討し、設計の変更・調整を行う…ということの繰り返しになります。

こうして修正と調整を繰り返しながら建主に提案し、納得いただける状態で最終的な承認をもらい、基本図を完成させます。建主の承認をいただくまで、再提案が何度も続き、長期間に及ぶことも珍しくなく、一番時間がかかる工程です。

*申し込み前の段階で、基本図に近しい綿密な計画図を提示している会社もあります。この場合は建主にあらかじめ現実的な間取りを提案しているので、大幅な変更があまりなく、基本図の承認までが比較的スムーズ。もちろん、設計としての調査を細かく行った上で基本図を仕上げ、建主に承認をもらうステップを踏みます。

*今回は設計・施工を一社で行う場合のお話です。依頼する建設会社によっては、設計と施工が別会社の場合もあり、その際に建主は複数の設計会社の中から基本図・見積もり・会社の実績等を検討し、発注する設計会社を選ぶ権利を持ちます。

実施図作成

賃貸マンションマスター
金額がまとまれば、実施図面(より詳細な図面)作成の作業に入ります。今までは全体的な間取り図を展開していましたが、廊下、階段、部屋、屋上、外構…と各所をズームアップして、それぞれの詳細な設計図を作るのです。この実施図面は法的に必要なものであることはもちろん、検査機関の確認申請をするため、正確に建築費を算出するため、また建主に仕様や積算内容について説明するため…などいろんな役割を兼ねています。

建主・Aさん
多くの設計図が必要なのですね!

賃貸マンションマスター
そうですね。さらに電気・通信配線の詳細図面も大きな要に。電気、テレビ、電話、インターネット、照明、…これらの設備すべてに“配線”の設計図が必要です。また”設備”の設計図も。ここで言う設備とは、水道、ガス、換気(空調)、雨水、消防等の設備のこと。

建主・Aさん
電気・通信・設備だけでもこんなに種類があるんですね。このほか、ガスや水道もあるし、建物の裏側は“線”と“管”だらけですね…!

賃貸マンションマスター
そうですね。そして目に見えない構造部分も非常に重要。建築物の骨組みや構造材、基礎構造などを計画する「構造設計」もしっかりと行っていきます。

日本は地震が多いので、建物の構造面の法律(建築基準法)がとても厳しいのです。そんな建築基準法に基づき建築確認・検査を行う検査機関があり、マンション建築の際も「安全な建物として構造が成り立っているか」の適合判定を工事の前に受ける必要があります。判定が下されたら確認済証が発行され、公的に建築許可を受けたという証になります。

とはいえ、構造を手厚くすればするほど建築費も上がるので、経済性のバランスを見ながら法律の範囲内で効率よく設計することが望ましいですね。

建主・Aさん
自分たちが思う以上に、事細かな設計図が作られているんですね…脱帽です。正直、素人が実施図を見てもちんぷんかんぷんですが(笑)、だいたい何枚くらいの資料になるんですか?

賃貸マンションマスター
建物の規模にもよりますが、だいたい150枚前後でしょうか。膨大かつ精密な設計図になるので、実施図の作図に2〜3ヶ月を要します。

建主・Aさん
ちなみに、壁の厚さや照明の配置、設備面など、基本図ではわからなかった部分が実施図を見て初めてわかることもありますよね。そのとき、変更をお願いしたいと思った場合は間に合いますか…?

賃貸マンションマスター
建物の配管や構造上の条件があるので一概には言えませんが、相談することは可能です。きちんとした会社なら、建主に対して実施図がある程度まとまった段階で確認を行い、その都度調整を加え、建主の了承を得ながら進めていくはずです。行き違いを防ぐためにも信頼できる会社に依頼することが大事ですね。

さあ、実施図がまとまったら、建築費を算出する「積算」という工程に移ります。詳細な実施図をもとに部材や工賃などを計算しながら、基本図の金額より正確な建築費用を算出するのですが、積算するだけでも約1ヶ月かかると言われています。

建主・Aさん
お金の話になると現実味を帯びますね。ここで予算オーバーとなったら…どうしよう!?

賃貸マンションマスター
もし予算オーバーで経済的に厳しいようでしたら、実施図と本積算を見ながら、どの部分をコストダウンできるかを設計担当や積算担当と一緒に検討しましょう。例えば、キッチンやのグレードを変更するとか、構造上問題がない部分について金額調整をしていきます。

建築確認申請

賃貸マンションマスター
積算の工程と同時に、検査機関へ届出を行います。

建主・Aさん
どういった届出ですか?

賃貸マンションマスター
色々ありますが、一番重要になるのが「建築確認申請」。これは、建物が違法につくられていないかの審査であり、敷地に対して建築基準法や都市計画法に適合している図面であることを証明するものです。

このほか、消防関連の届出や構造の適合判定の申請書なども提出します。ここでは伝えきれないほど建物に関する法律・条例が多々あり、それらに則った設計であるかどうかの検査を一つひとつクリアしなければなりません。

建主・Aさん
設計図の完成から工事に入るまでに、多種多様な法的検査を受けないといけないのかぁ。建主の要望を汲み取りつつ、設備関係の関係先と連携しつつ、建築基準法や条例も守りつつ、設計って大変ですね。改めて信頼できる建設会社に頼まないといけないなと思いました。

賃貸マンションマスター
建築確認申請で審査が通るまで、とても長い道のりです。理想の賃貸マンションを建てるために、設計担当が建主や協力業者と協議を重ねながら一つ一つ進めていきます。

●次はいよいよ工事へ。「基礎・躯体(くたい)」の工事内容について詳しく学びます。